平和にしたい恋人紹介
これはこの人と結婚する関係だな、というふうになって、実際に結婚することをふたりの間で取り決めたとき、お互いをお互いの実家(の両親など)に紹介するという流れがあるでしょう。
実家に紹介するということが、結婚と直線的につながっているというイメージもひとつあると思います。一方で、かなりそのイメージ自体古いというのもあるでしょう。「結婚するかなんて全然わからない」「いつかはそうなりたいが今はその予定がない」といった程度で実家に付き合っている相手(恋人)を連れて行くということが実際ままあると思います。あるいは、「結婚するつもりは正直、さらさらない」といった関係でも相手の実家を訪れることもじゅうぶんあるでしょう。
結婚を二人が決めたことを、相互の実家の親に告げるためにいざ実家に行かん!という機会は、ふたりにとっても、連れてこられる実家のメンツにしてもドキドキしてしまうでしょう。実家に残っている兄妹とかでしたら、「なんかアニキがこんど婚約相手連れてくるらしいよ〜。キョドってたらちょーウケるんだけど」とかいって茶化すほどに余裕かもしれませんし、あるいはドキドキしているのは実際当事者の二人ばかりで、実家の親のほうは「かたくならずに気楽に来て〜」くらいに思っているかもしれません。あるいは娘親だと「いっぱつブン殴る」くらいに思う父親も、あながち私の幻想の中でなく未だに現実の世界にもいるのでしょうか。くれぐれも平和にいきましょう。
春のおとずれ 小柳ルミ子 曲の名義、発表の概要
作詞:山上路夫、作曲:森田公一、編曲:森岡賢一郎。小柳ルミ子のシングル、アルバム『春のおとずれ ルミ子とフォークの出逢い』(1973)に収録。
小柳ルミ子 春のおとずれを聴く
とっても情緒のある素敵な歌です。左右からシャワシャワとギターのストラミング。前奏や後奏で目立つ、中庸な音域のわびさびあるあたたかい音色の木管楽器はファゴットでしょうか。とても器の広い登場人物の象徴のように思えます。主人公が女性だとしたら、主人公の実家のお父さんみたいな存在感です。
ドラムスは右に振ってあって低域が非常にリッチに出ています。ストリグスがすこし奥のほうから流麗にたちあがり、ビブラフォンのようなゆらめいた金属体鳴のアタックの丸いトーンが甘く柔和にたちあがります。全体にすごく音がいいですね。
小柳ルミ子さんの歌唱は低いところの豊かな響きと、声区をなめらかにどこかで越えたような高い音域の鋭さまで表現豊かです。品がよくてデキる主人公の物語を思わせますので、歌詞の円満な展開を如実に映した歌唱が妙です。
“春のなぎさを あなたとゆくの 砂に足跡 のこしながら はじめて私の 家にゆくのよ 恋人がいつか 出来たらば家へ つれておいでと 言っていた父 夢に見てたの 愛する人と いつかこの道 通るその日を”
(『春のおとずれ』より、作詞:山上路夫)
砂とか浜とかいう単語を聞くとつい夏を思い出してしまいますが、これは春のモチーフとして「砂に足跡」と用いたのが妙技です。ふたりのストーリーのことかもしれませんし、主人公と両親や実家のあゆみのシンボルが「砂に足跡」なのかもしれません。非常に情緒がある詩作です。
主人公のお父さんは、もともと寛大で器の広い人物のようです。なるほど、このイントロからエンディングまでの安心感は、こういう良い親のもとで健全に育った主人公の物語を映している意匠の結実なのでしょう。うらみつらみや波乱万丈、愛のうらがえしの憎しみとか怨念のようなものを歌った「怨歌」(藤圭子さんなど思い出します)の世界も魅力的ですが、小柳ルミ子さんの表現する『春のおとずれ』『瀬戸の花嫁』のような世界は、それとは対極の良さがあるかもしれません。
青沼詩郎
『春のおとずれ』を収録した『プレミアム・ベスト 小柳ルミ子』(2009)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『春のおとずれ(小柳ルミ子の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)