明るい未来 never young beach 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:安部勇磨。never young beachのアルバム『fam fam』(2016)に収録。

never young beach 明るい未来を聴く

繰り返されるギターリフが弾むように爽やかです。これがネバヤンサウンドのベーシックイメージという感じがします。この楽曲『明るい未来』でnever young beachを初めて認知した人も多いのではないでしょうか。私自身がたぶんそうです。何かのメディアで、どこからともなくこの曲が聴こえてきたか、あるいはバンドの名前が評判とともに聴こえてきて検索するなりしたとき初めに行き当たったのがこの曲だった気がします。

イントロのギターは12弦のサウンドでしょうか。響きのあるエレキギターのサウンドがちょっとサーフ・ミュージックみたいな感じもあります。夏の解放感とともに風に乗ってやってきそうな曲想で、新鮮さと懐かしさの双方を兼ね備えた「うらやましい」感じのバンドです。12弦のギターはGS(グループ・サウンズ)のいくつかのヒット曲だったりスピッツの『空も飛べるはず』だったりを思い出させる、そういう大衆音楽における「必殺の語彙」のひとつであるのを思います。

音楽のスタイルがツボなのです。奇を衒う志向性でないのは確かでしょう。レコードで発表されるのを基本とする時代の音楽を参照している音楽性に思えますが、熱心に参照していなくてもこういうスタイルと音楽性に行き当たることはままある、そう思えるくらいにシンプルで普遍的なスタイルだと思います。ギター、ベース、ドラムスを鳴らして、コード、リズム、ボーカルメロディが確かなプロットをもって成立する塩梅です。この風通しのよさと、ただよう懐かしい匂いこそが、私がネバヤンを「いいなあ」「うらやましい」と思う所以かもしれません。湿っぽさや潤いと、カラっとした乾きの双方を感じるのです。

犬と僕を感じる歌詞

君が眠れば 夜は静かで 愛しているよ

言えやしないから 抱きしめた

明るい未来の話 例えば僕らが死んでしまっても

あっちでも仲良くやろう いつまでも側にいてくれよ

(『明るい未来』より、作詞:安部勇磨)

ああそうか、こういう歌かというハイライトを感じさせるラインです。あの世にいってもよろしくやろうぜという友愛や親愛を感じます。これが『明るい未来』の本旨、結論であり核心でしょう。

『明るい未来』以前にリリースされているnever young beachの楽曲『あまり行かない喫茶店で』の歌詞に犬が登場します。

あなたと二人 街を出ようか 小さな家を買って 部屋にはピンクの ペンキを塗って 庭には犬を 走らせよう

(2015年のシングル、アルバム『YASHINOKI HOUSE』収録曲『あまり行かない喫茶店で』より、作詞:安部勇磨)

『明るい未来』で歌われる「君」は、私の中ではどうも愛犬らしき存在が重なるのです。犬は複眠動物だといいますし、一緒に暮らす飼い主は、犬が眠っている(先に眠りについている)ところを目撃することは日常でしょう。言語(しゃべり、言葉の精緻な意味)によって愛を伝えることができないから、スキンシップによって愛情を伝えるのに至る道理も、人と犬であるという設定を代入するときれいに収まります。

明るい未来の話 寒い夜でも君と二人で ふざけたダンスを踊ろう いつまでも側にいてくれよ

(『明るい未来』より、作詞:安部勇磨)

人間同士は言葉が通じるのであれば、言葉によって、良くも悪くも意思疎通を済ませてしまえます。しゃべることによる「言葉」が通じる仲において、「ふざけたダンス」を踊り合う仲は、かなりお茶目だと思います。そういう友愛も素敵です。

犬と人の仲であれば、人はお茶目になれるのでしょう。「しゃべり」による言葉が通じない(通じにくい)となれば、連帯感を得るためのアプローチ方法が、より身体的なものになる道理です。

もちろん、犬に向かってしゃべりによる言葉で「話」をする、話しかけることは有効でしょう。声のトーンや調子、個別の語句の特徴、それらが発せられる状況や過去の経験による学習で、犬は、飼い主なり人間が「しゃべりかける」ことでその時に何を伝えようとしているのかを、私の想像を越えるレベルで理解するのではないかと思います(私が犬を飼った経験を持っていれば、このあたりはかなりの解像度を持って論じれたかもしれません)。

犬はどうしても人間より短命です。あちらの世界に渡ってからの「明るい未来」を想うのは、犬と過ごす人間の宿命たる愛情かもしれません。もちろん人間同士でだって、川の向こうに及んでいつまでも側にいたいと思うでしょう。

「犬と人」の設定で妄想にふけってしまいました。楽曲『明るい未来』の、あなたの思う味わいがそれぞれあることと思います。いずれも明るくあってほしいものです。

青沼詩郎

never young beach 公式サイトへのリンク

『明るい未来』を収録したnever young beachのアルバム『fam fam』(2016)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『明るい未来(never young beachの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)