Here Comes the Sun The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:George Harrison。The Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)に収録。

The Beatles Here Comes the Sun (2009 Remaster)を聴く

猛烈に私の気を引くのが変拍子です。中間部で“Sun, sun, sun, here it comes”を繰り返すところですね。夢中で数えてしまいました。

7/8(8分の7)拍子で突っ込むように突入し、9/8(8分の9)で”Sun”を3回言って、”here it”で2/8拍子、”comes”で一瞬4/4(8/8)に戻る。この繰り返しです。

入念に繰り返すことで恒常性を得る、トリッキーな変拍子パターン。

さらっと楽曲を聴いているぶんには非常に自然でほのぼのした聴き心地なのですが、演奏する身になって解釈や機構の把握をこころみるに、とてつもなくひねくれてもいるのです。それでいて、楽曲が語りかける、想起させるものはやっぱりとてもやわらかくて風光明媚で美しい。

先日、映画『ザ・ビートルズ Let It Be』(レストア版)がディズニー・プラスで公開になる直前の試写会(Tokyo FM みのらじ presents)に参加してきました。映画を観てあらためて思ったのは、ジョージの歌唱の柔和で繊細な魅力です。となりに何気なくいて場に調和するようにも思うのですが、同時にそれは儚さでもあります。いつ何がきっかけでへそを曲げるかわからない。一瞬一瞬が奇跡の積み重ねであるのを思わせる。そういうあやうくて気ままな存在でもあるのです。

12弦ギターのリフレインは世界で最も有名なイントロのひとつでしょう。ヴァースの歌メロをおおむね再現すタイプのギターリフです。かなりのハイフレットにカポをつけてDのローコードが主和音になるポジションで演奏すると、原曲そっくりの儚いギターのテンション感がうまく真似できそうです。

シンセサイザーやハーモニウムのトーンが漂い、鳥や童心が公園や街路のそこここを交うような自由で開放的な日向の趣を両手いっぱいにこさえたようなサウンドです。

ギターのポジションが高いせいか、ドラムスやベースの低い位置の空間がのびのびした印象で臨場感があり、奔放にいきいきとしています。ドラムスのフィルインは躍動し、一瞬の隙間に花を咲かせます。

日本だとヘイ・ジュードやレット・イット・ビーが一般の認知度が高いビートルズ曲かもしれませんが、イギリスではヒア・カムズ・ザ・サンがそれくらい大きい存在として高い認知を得ている楽曲のようです。

演奏の技巧や意匠のフック・意外な拍子、かろやかではかなげで愛嬌のあるボーカルの質感やメロディや歌詞といった楽曲の基本的な要素において、いちジョージのソングライティングという括りを外したうえでもビートルズの傑作のひとつで間違いありません。私も好きな曲です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ヒア・カムズ・ザ・サン

参考歌詞掲載サイト 世界の民謡・童謡>Here Comes The Sun 歌詞の意味 和訳 ビートルズ 歌詞のシンプルな言葉づかいと内容がうかがえます。広く親しまれるには、難解すぎても困りますが「だから何?」というほどに思想がすっからかんでも困ってしまうでしょう。『Here Comes the Sun』の楽曲としてのバランス感が多くの人に響き、親しまれ続ける所以を思います。

『Here Comes the Sun』を収録したThe Beatlesのアルバム『Abbey Road』(1969)

ビートルズ鑑賞のお供にしたい、曲ごとに気軽に読める『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド』(中央公論新社、2015年、著:里中哲彦・遠山修司)。エリック・クラプトン邸で『ヒア・カムズ・ザ・サン』が発想されたという有名な(?)エピソードや姉妹曲『ヒア・カムズ・ザ・ムーン』の存在が遠山さんの発言で語られています。

Here Comes the Moon(1979年発表アルバム『George Harrison』収録)を聴く

ヒア・カムズ・ザ・サンとは対照的に、空想に耽る夜の庭を想像させるオープニングです。ミョーーンと痺れるようなシタールのドローンのサウンドの「ジョージらしさ」に思わずのけぞって笑ってしまいそうです。ジョージらしい繊細でソフトな歌唱と、ヒア・カムズ・ザ・サンのようなかわいらしさ・愛嬌を感じる美しい曲で私好みです。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Here Comes the Sun(The Beatlesの曲)ギター弾き語り』)