にじ 園や生徒の愛歌
この曲は幼稚園や保育園の卒業の季節に重宝されているのじゃないかと思う。思うというのは、実際に私がそうした機会に立ち会ったことがないからだ。
1990年に作曲された『にじ』。私は1986年生まれだから、私が幼稚園児だった頃。私の在園中には曲が生まれていた。でも、最近まで知らずに来た。
私はブログを書いたり音楽をつくったり演奏したりする。それをTwitterほかで発信してもいる。Twitterでつながることが出来た人には保育の現場に通じた人もいて、そうしたTwitter投稿を見てその存在を知った曲、『にじ』。
私が園児だったころは、この曲は発表したてだったろう。私の卒園は1992年くらい。その年の7月にようやく、この『にじ』を収録したクレヨンハウスの月刊誌「音楽広場」プロデュースのCD『あしたがすき』(トラや帽子店・新沢としひこ)が出たところだ。
大人になってこうしてこの曲と出会う。私には息子がふたりいるから、彼らが卒園するとか、小学生になって生活する中で、今後この曲にふれることがあるかもしれない。
私みずから、地域やらどこかへ出て行って、大人や子どもの前でこの今日を演奏したり歌ったりするのもいい。園児や児童の保護者が、行事か何かのときに子どもらの前に出て何かをやる機会もあるかもしれないから、そういうときにも活きる曲だろう。息子たちは嬉しいか、「(恥ずかしいから)ヤメてくれ(見たくない)」と思うか。親は嫌がられるくらいでちょうどいい気もする。
作者について 新沢としひこ 中川ひろたか
作詞したのが新沢としひこ。作曲が中川ひろたか。
新沢としひこ
シンガーソングライターで、絵本作家でもある彼。繊細な雰囲気ある素朴な歌声が魅力的だ。
中川ひろたか
シンガーソングライターかつ、元保育士。
動画では四つの弦を張ったユニークな楽器を持っている。暖かみのある歌声だ。
2019年から山野さと子、本田洋一郎とともにバンド『ヒネるズ』としても活動。
新沢としひこ、中川ひろたかはクレヨンハウスの月刊誌『音楽広場』で1987年から多くの歌を発表した。縁深い二人だ。
曲・歌詞について
トリプレット(3連)のリズム。カノン進行のようにベースが下がっていく。しんみりさせるいい曲をつくりたければ、このコード進行を模倣すれば間違いない……は言い過ぎかもしれないが、これに似た進行による名曲は本当に多い。私はしんみりさせる魂胆ありきで曲を作りたくはないが。
“くしゃみをひとつ”が印象的。くしゃみは生理現象だし、自分の意志とはおおむね無関係にあらわれてしまうのだ。それがなんだか、子どもらしい純粋さを思わせる。子どもらしいというのもあてつけで……言い直そう、普遍や大衆性を思わせる。
“にわのシャベルが一日ぬれて 雨があがってくしゃみをひとつ” (『にじ』より、作詞:新沢としひこ)
一日雨にさらされ、冷えきったシャベルがたまらずくしゃみをする。技法としてみれば擬人化だ。雨に降られることから、寒さ、冷え、孤独を連想する。厳しさ、逆境、冷遇。そうした境遇から、サビの“にじが にじが 空にかかって きみの きみの 気分もはれて” (『にじ』より、作詞:新沢としひこ)と光が兆す。旋律が爽快に響く。緊張感から解き放たれて、ほっと安心する。ほぐれた感情がやさしく揺らぐ。
“きっと明日はいい天気”(『にじ』より、作詞:新沢としひこ)と結ぶ。未来の余白を思わせる。ここで一旦は別れる者どうしの間で交わす挨拶としてもいい。
今日の自分から明日の自分への激励と読みたい。毎日、今日の自分との別れを繰り返し、明日を迎える。「はじめまして」の一言もなしに、いつの間にか明日の私になっている。それは幸福な未来の連なりだ。明日があるのは今日の自分と、自分を含むすべてのおかげ。
なんだかありがたい気分に着地させてくれる。虹が、今日もどこかからどこかへ架かっている。
青沼詩郎
【原曲について】
1990年に作曲された。月刊「音楽広場」で発表され、同誌プロデュースのCD『あしたがすき』(トラや帽子店・新沢としひこ、1992年)に収録された。
「トラや帽子店」は中川ひろたか、増田裕子、福尾野歩によるユニット。
作詞: 新沢としひこ 作曲:中川ひろたか
【ご笑覧ください 拙カバー】
https://www.facebook.com/shiro.aonuma/posts/3367208893372761