BELOVED GLAY 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:TAKURO。編曲:GLAY・佐久間正英。GLAYのシングル、アルバム『BELOVED』(1996)に収録。

GLAY BELOVEDを聴く

1986年生まれの私がCDやMDでさんざん聴いた時代の音楽です。今の自分の環境でヘッドフォンで聴く日が来るとは、当時は想像もしませんでした。

すごく「わかるなぁ」というか、あたりまえのように私を育てたサウンド、音楽の背景的なふるさとを象徴するのがひとつGLAYが提示したバンドのサウンドなのかもしれません。

ドラムスの音が非常に硬質です。アクセントとはここまでやってはじめて成立するのだと教訓をもらう気分です。2・4拍目のスネアの轟音とエッジが永久に頭の中に回る気分。ライドシンバルなどのきらびやかな響きがドラムスの音像の輪郭をひろげます。

べらんべらんとベースのサウンドもきらびやかです。ピックで弾いているのでしょうか。ハナがある音色とプレイです。硬質なドラムスとあわさり、どんなにギタついたものでも余すことなく載せて走ってくれそうな予感がするベーシックです。

ギターの複数のつなぎ方がとてもうまい。アコギの提示ではじまり、アコギの提示で結んでいきます。ずっと曲中アコギがいる感じではなく、バンドのイン・アウトとともにスムースに入れ替わるように構築されて思えます。

左でエレキギターがマイルドなカッティング。息の根を止めるような鋭さではなく、愛情を感じるジェントルなカッティングです。対する右サイドのギターはレガートなエレキギターです。

ギターソロで途中で2本目が右サイドのほうから重なってきて、結び付近では花びらをふりまくようなツインギターの細かいパッセージでBメロに回帰します。もう一度しつこく強調しますが、複数のギターの采配が巧いです。

TERUさんのボーカルはファット、太さのある印象ですが聴いたときの「太い」印象の割には、音域的に比較的高めのところを大きい割合でつかっているように思えます。ボーカルにパワーがあるのです。

スタジアムがホームグラウンドであるかのようなサウンドが、録音作品としても強調されて思えます。このパワフルなバンドの構図に埋没しないエネルギーを感じるリードボーカルなのです。

二人のギタリスト、ベース、ボーカルのオリジナルメンバーに、永井利光さんのドラムスの存在はGLAYのサウンドに欠かせないものとなっているように思います。メンバーチェンジがないベテランバンド。

些事ですが、ハーモニーのボーカルの切れ際がカッコいい。どんな処理をしているのでしょう。フェーダーなのか? 次元の向こうに消えて行くような音(声)の切れ際を感じます。

「○万人ライブ」みたいな大規模を動かすアクトの、私的な基準点になる存在がGLAYなのです。その原点のバンド音楽人としての実直さに、鑑だと思わせるアティテュードに感動します。

歌詞 回顧と宣誓

単純な心のやりとりを 失くした時代の中で 3度目の季節は泡沫の恋を愛だと呼んだ

いつの日も さりげない暮らしの中 育んだ愛の木立 微笑みも涙も受けとめて 遠ざかる 懐かしき友の声を胸に抱いて想いを寄せたいくつかの出逢い… いくつかの別れ… くり返す日々は 続いてゆく

(『BELOVED』より、作詞:TAKURO

一瞬の情景を永遠のように昇華する神秘を最近私は大貫妙子さんの『4:00A.M.』という楽曲を鑑賞して実感しました。

それに対して『BELOVED』は率直に意味を成す言葉の組み合わせ、文章という媒体をストレートに利用することで時間の幅を描写します。

恋愛の歌のように一見できます。あるいは自己愛・自尊心の歌と解釈もできそうです。

たった一瞬の出来事は、人の一生の運命を揺るがします。“泡沫”だと知覚した、脆弱で刹那の恋であろうと一人の人生の長期間の幅に及んで影響を与えうるものです。恋と愛は別物だとも思いますが、接合してもいます。

結果として「あの恋は愛だった」と回顧することがあってもスムースです。

評価や解釈は日々とともに覆ります。カーブを徐々に曲がっているうちに向かう方向は90度、180度と変りうるのです。

記憶の内容物は徐々に改ざんされうるのです。不都合な事実の忘却による美化がその一例かもしれません。あるいは、自分自身をみじめたらしめその悲運を他人に訴えるためなのか、客観的な幸福を無視してしまう愚もあるでしょう。

やがて来る それぞれの交差点を迷いの中 立ち止まるけど それでも 人はまた歩き出す 巡り会う恋心 どんな時も自分らしく生きてゆくのにあなたがそばにいてくれたら

AH 夢から覚めた これからもあなたを愛してる 夢から覚めた 今以上 あなたを愛してる

(『BELOVED』より、作詞:TAKURO)

現実(過去や事実)の解釈も日々改めるのが人の成長です。夢から覚める、は認知や評価が覆ることの比喩にも思えます。

これまでに愛した対象に、今以上の愛を誓う……現実からの脱却の宣言です。

自分を操縦する人格としての「自分」を見立てるとき、パートナーがいつもこの胸にいると思えます。そういう自尊心、自己肯定の歌とも解釈できますし、幅のある時間・期間を共に通ってきた実際のパートナーへの愛の言伝であるとも思えます。

華やかなGLAYのビジュアルイメージを観察して思うのは、瞬間瞬間を全身全霊で盛大にカッコつけきるからこそ、振り返る価値も大きいと思えることです。電気を帯びていて、触れると痺れます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>BELOVED (GLAYのアルバム) BELOVED (GLAYの曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>BELOVED

GLAY 公式サイトへのリンク 「GLAY 30th Anniversary GLAY EXPO 2024-2025」のビジュアルイメージに尾田栄一郎さんによるGLAYメンバーをモチーフにしたイラスト。尾田さん感がさりげなくてカッコいい。じわる「なるほど」と腑に落ちる感があります。

表題曲を収録したGLAYのアルバム『BELOVED』(1996)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『BELOVED(GLAYの曲)ギター弾き語り』)