前置き 鬼滅映画とアニメ映画「ジョゼ」予告
近頃(執筆時)くるりの岸田繁氏が『鬼滅の刃』に触れたツイートをしばしばしている影響を受けて、私もアニメを全編(執筆時)観ました。とてもハマってしまい先日『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観にも行きました。
あなたが「鬼滅」の話をしたい人だったらごめんなさい。これは前置きの前置きだから話は変わっていきます。
「鬼滅」の本編上映前の予告で見たのがアニメ映画の「ジョゼ」予告でした。
『ジョゼと虎と魚たち』がアニメ映画化と知って驚きました。
私がかつて観た『ジョゼと虎と魚たち』といえば、2003年・犬童一心監督の映画。
その主題歌と音楽担当がくるりで、主題歌は『ハイウェイ』。
2003年、私は17歳の高校生でした。ちょうどくるりのことを知って好きになったのがこの時期。1曲入り500円のシングルを当時買いました。「ジョゼ」の映画は劇場ではなく公開からしばらくしたあとに家で円盤で観たんだったか。数度繰り返し観た記憶があります。
主演の妻夫木聡は私の最も好きな映画のひとつ『ウォーターボーイズ』(2001)でも主演だという興味のつながりもありました。
(懐かしい……すみずみまで愛おしい)
前置きの前置きの前置きが長くなりましたが今日はくるり『ハイウェイ』の話がしたいのです。
ハイウェイ 曲について
アコースティック・ギター、「ドン・タン」のベーシックなドラムスが音の成分の幹。シンプルな印象の曲ですが、生半可なソングライティングでは足し算でも引き算でもこのアンサンブルを狙ってやるのは難しそうです。それほど、絶妙を射抜いて顕現させたような傑作。
アコギリフ、それから歌フレーズの弱起(強起=小節のアタマできっかり始まる。弱起=それ以外。ずれたとこからフレーズがはじまる)が特徴。シンプルに思えますが、意外と弾き語りでコピーしてみると高難度です。歌とギターリフの織りなすリズムを両立して表現できると、弾き語りで真似した際のカッコ良さが激増しそうです。
コード進行 Ⅰ⇔Ⅳのリフ、想定内の想定外 異なる地平
コード進行は非常にシンプル。Eメージャー調で、Ⅰ⇔Ⅳ(E⇔A)が基本です。シンプルですが、タイトルは『ハイウェイ』。高速道路といえば、単調な景色を単調な速度でひたすら行くもの。どこかから、どこかへ。それも「シタミチ」よりはこちらを選ぶほうが効率が良いという程度の、ほどほどに(あるいはがっつり)遠いどこかへ行くときに私やあなたは「ハイウェイ」を選ぶでしょう。
そんな、単調で、しかし何もないわけでもない旅の道のりを、曲はよく表現しています。サービスエリアで休憩。ちょっとタバコしたりコーヒーしたりお手洗い行ったり空や山を眺めたりほかの利用者や家族連れの子どもに視線をやってみたり。そこには多様な「ハイウェイ」利用者が織りなす光景。でっかくごついバイクを相棒にした集団の革ジャンの照り返し。遠足や修学旅行の途中かな、学生や青年の集団。お仕事おつかれさまです、長距離運転のトラックやバスなど業務中のドライバー。そんな、「なんにもないような・いろいろあるような、人々の道半ば」がクロスする長い長い帯。くるり『ハイウェイ』を聴くと、そうした映像や情景が脳内スクリーンに立ち現れます。発表当時からずっと大好きな曲です。
間奏部の折り返しではDのコードが出てきます。これはEメージャーにおける、♭Ⅶ。構成音がⅤmにも似ていて、異なる地平(場面転換)を感じさせるコードです。単調な道中でも、ときに異質な何かと交わり、過ることもあるでしょう。間奏の入りはC♯m。こちらはあくまで調の中のコードですが、調和の想定内でありつつも、ちょっとした悲哀や変化のシンボルに感じます。Ⅵm(『ハイウェイ』ではC♯m)は世界観に収まったドラマの起伏という感じです。そのあとの折り返しから、D(異なる地平)への進行。景色が移ろっていきます。いいですね。
歌詞 百の理由 無の理由
“僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって”(くるり『ハイウェイ』より、作詞・作曲:岸田繁)という歌い出し。ひとつめは…と続き、みっつめまでここで明かされます。あとだいたい九十七はどこへ? なんて言うのは野暮(もちろん、願い出れば受け入れて語ってくれるかもしれませんが)。このみっつと「芋づる」でつながったような九十七があることを想像します。
ひとつめの“ここじゃどうも息が詰まりそうになった”と、ふたつめの“今宵の月が僕を誘っていること”、みっつめの“車の免許取ってもいいかなあなんて思っていること”にしたって、思いつき(発想)の糸でつながっており、自然に引き出され、紡がれた言葉だと感じます。車のウィンドウの外の景色が地続きにつながり、流れながら変化していくように。
この言葉を吐き出す主体「僕」がこの曲の核にいます。彼は“百個くらい”といいますが、それは百でも千でも万でもきっとおなじこと。だから、最初のみっつで足りるともいえますし、そのみっつでさえ、きっとひとつに集約されます。この歌の主体「僕」のもとへ。
彼(「人格として同一の彼」かどうか定かではありませんが)は二番の平歌のおしり付近で“僕には旅に出る理由なんて何ひとつない”と言います。「僕が旅に出る理由」で括ることのできる彼の吐き出す言葉は、百でも千でも万でも、それどころか無ですら等価のものなのかもしれません。
そこには主体で核心の「僕」があるのみ。「僕」の背景には、単調な道のりの象徴「ハイウェイ」がある。心象の曲であり、非常に絵画的でもあります。
私も、ハイウェイを通ったに違いないのです。この歌の主人公と、すれ違ったり並走したりしたかもしれません。あるいはまったくかすりもせずに入れ違ったかもしれない。でも、きっと同じ背景の前を横切って旅した仲なんだろう……そんなシンパシーを覚えます。
延々と、車のボンネットの下へと吸い込まれていく白線のように恒久。ずっと心に鳴っている素朴な響き。
青沼詩郎
くるり 公式サイトへのリンク
犬童一心監督 映画『ジョゼと虎と魚たち』(アスミック・エース)へのリンク
https://www.asmik-ace.co.jp/lineup/1086
くるりのシングル『ハイウェイ』(2003)
くるりのオリジナルサウンドトラック『ジョゼと虎と魚たち』。『ハイウェイ』『飴色の部屋』ほか収録。2003年11月5日発売。
犬童一心監督映画『ジョゼと虎と魚たち』(2003年公開)DVD
くるり『ハイウェイ』MVが全編見られるくるりのMV集『QMV』(2020)。いろんな車を乗り継いで主人公が至る場所は……? 当時を語りあうメンバーらのオーディオコメンタリが楽しめます。
ご笑覧ください 拙カバー
青沼詩郎Facebookより
“『ジョゼと虎と魚たち』がアニメ映画になる。12月25日公開。先日映画館でこれの予告を見て、アニメ映画化に「へぇ」と思いました。2003年の犬童一心監督の映画、観ましたDVDで何度も。こちらの主題歌が私の敬愛するくるりの『ハイウェイ』。シングルが1曲収録で500円でした。当時買ったCD今でも持っています。原作は田辺聖子の小説、最初の発表は1984年の『月刊カドカワ』。1985年に短編集収録。以外と古くからあったのですね。”
https://www.facebook.com/shiro.aonuma/posts/3408356102591373