ヘマな奴 友部正人 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:友部正人。友部正人のアルバム『1976』(オリジナルリリース:1976年。旧題『どうして旅に出なかったんだ』から改題して再発)に収録。
友部正人 ヘマな奴を聴く(アルバム『1976』CD収録)
あと53分くらい延々とこの音景に乗った詩がほとばしるのを聴いていてもいいんじゃないか、それくらい続くのじゃないかと思わせます。
友部正人さんの言葉がはじけ、前傾姿勢になったりジャンプしたり風を受けて舞い上がったりハードルをくぐったり。
バンドの演奏名義はスカイドッグブルースバンド。マンドリンが佐久間順平さん。エレクトリックギターに中川イサトさん。
右側のエレキギターが闊達です。スリーフィンガー的な奏法なのか。リズムの恒常的なのだが起伏のあるパターンが時雨のように降り注ぐ中私をどこまでも歩かせます。左には輪郭の立つピックのサウンドでエレキギターがトリッキーかつ滑舌のよい語彙を泉のように噴出します。出るところと引っ込むところのメリハリがグラマーです。
ピアノもソロとバッキングのコントラストをわきまえています。リズミカルで鳴りが高らか。
ベースは4分打ちを基本にしますが装飾的な引っ掛け方が細かく玄人じみていて魅惑。聴かせます。
ドラムのスネアが空間をただよいます。パス!パサ!と軽いサウンドです。ロッドで叩いているのでしょうか。アコースティックのオルタネイトストロークと仲が良い印象で軽やか。質量感や太さ・存在感をベースに譲って、4打ちのキックと裏打ちのハイハットを基本にスネアで繊細な分割を入れていきます。
ハーモニカのサウンドが強烈で独特。ダブリングのサウンドだと推察します。ハーモニカって、ハーモニカアンサンブルの楽団でもない限り、ウタモノ音楽(ウタモノのバンドやソロ)で用いられるときはもっぱら1本のみで用いられます。突出した倍音の強さがあるので重ねる必要がほとんどないのでしょう。ですがこの楽曲『ヘマな奴』では複数のハーモニカの描線で独特の揺らめきある輪郭です。主題の“ヘマな奴”が何かやらかしたみたいなね。
気のきいたウソをついては人を
こまらせて歩きたいな
約束なんて半分くらいおぼえておいて
あとは忘れてしまうもの
道端におっこちてる自転車で
どこまでもこいで行きたいな
でも ほんとにしたいことは もっと別のこと
ほんとうにしたいことは もっと別のこと
『ヘマな奴』より、作詞:友部正人
自転車は道端におっこちているだけのものもたしかになかにはあるでしょう。でもそう見えるだけで、盗られてしまうと持ち主が困るものもなかにはあります。
おっこちてなんかいないのに、見る人が見ればおっこちている自転車もあるかもしれません。あるいは、誰が見てもこれはもう「おっこちている」と思えるような自転車もありそうです。
気の利いたウソは微笑ましい気もします。心の底から困るには、知的すぎる。
約束は半分も忘れられてしまうと困る先方がいる気もしますし半分も覚えていればおおむねオール・ライトな気もします。
ほんとうにしたいことはもっと別のこと……と、繰り返して強調します。『ヘマな奴』の歌詞はおおむね一方通行で、泉のように連綿と流れていくのですが、その中では貴重な繰り返して提示されるフレーズですので存在感を放ちます。
無秩序というか無法者、無頼漢な感じもする人格を思わせます。法や規範はあなたを守るのか? それとも縛るのか? 「縛る」側面に注視したとき、こんな主人公の自由さや振れ幅や根のなさを見習いたくなります。
ヘマな奴はそんな主人公自身の一面な気もしますし、その視界のはしにいる別の誰かな気もします。誰しもが、あなた自身の、私自身の写し身であるように。
青沼詩郎
参考サイト 記憶の記録Library>どうして旅に出なかったんだ
友部正人 公式YouTubeチャンネル 2024年12月7日に最初の動画が投稿されています。
『ヘマな奴』を収録した友部正人のアルバム『1976』(オリジナルリリース年:1976)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ヘマな奴(友部正人の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)