夕陽が泣いている ザ・スパイダース 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:浜口庫之助。ザ・スパイダースのシングル(1966)、アルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』(1967)収録。
ザ・スパイダース 夕陽が泣いている(アルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』CD)を聴く
マチャアキ(愛称で失礼)のまっすぐで平常心な歌唱が面妖な魅力。“くちびるが〜”と合いの手をかますサブボーカルはかまやつひろしの声でしょうか。
右にドラムス。キックのアタック音がドカッと出てアクセント。カツっとスネアのリムがバランスをとってキックを引き立てます。同調するキックとシンバルづかいが西洋音楽的でもあります。
ドラムの対極、左にベースが振ってあります。キックとタイミングを合わせてもったりとした、しかし確実に迫ってくる妖気ある曲のスピード感の実権を握り確実に私の耳を襲いに来ます。
ギターもベースと近い左側に定位されています。ペケペケして、非常に鋭いサウンドはまるで三味線のキャラクターを私に思わせます。
ピーピーと伸びるオルガンはまるで笙(しょう)のような音色じゃないですか! なぜにこれほど私に古来の邦楽を思わせるのでしょう。楽曲のもったりとしたスライム……はぐれメタル(from ドラクエ)みたいな質感のねっとりしたグルーヴが私に和モノを思わせるのでしょうか(実際のはぐれメタルは逃げ足がはやい……どうでもいい情報を失礼しました)。
ストリングスが人の声のように朗々と歌います。しっかりと存在を訴えてくる。メッセージのあるストリングスです。軽薄なJPOPの紋切り型の添え物なんかじゃありません。マチャアキのあえての平常心なボーカルの寡黙さを雄弁にフォローするかのようなストリングスがみずみずしい。
エンディングはまるでロネッツの『Be My Baby』のような深く重厚な残響のなかに溶けていくようにフェイドアウト。
オルガンの音色が笙っぽく聴こえる理由は、オフマイク感ある遠い音像が特徴なせいかもしれません。
楽曲はE♭マイナー調でじっとりとした光陰を表現。ときおり平行調のG♭メージャーにはしごをかけ光量にメリハリを与えます。
『夕陽が泣いている』編曲はスパイダースとチャーリー脇野の連名。繰り返しになりますが、妖しく独特の寂寥と重みのあるサウンドが確立されていて独創性に富みます。西洋と和の融合だ!
唇は言葉の門
真赤な 唇のような
夕焼けの 空と海の色
あの娘の唇が
真赤な唇が
僕を呼んでいる
夕焼け 海の夕焼け
大きな 夕陽が泣いている
『夕陽が泣いている』より、作詞:浜口庫之助
夕焼けにあの娘の唇を重ねます。夕焼けを見て私は「唇の色だ(色が似ている、想起させる)」と思ったことがありません。どんな赤なのかな。真赤なリップを塗った、いかにも厚化粧な赤なのか。
血液の色が透き通る色白な娘の素朴な唇の赤なのか。
あの娘の唇が僕を呼ぶというのはイマジネーションが可愛い。ハマクラっぽさを私が感じるラインです。
でも、人が言葉を発する動作を唇に象徴させることもあると思います。読唇術というのがあるくらいで、人が発語するときには唇が必然的に動く。唇と言葉は結びつきが強いのです。
つまりあの娘の意思表明、愛や恋慕が主人公に届き、主人公はその唇のもとに誘われてしまうのです。
“誰かに恋をして 激しい恋をして 夕陽が泣いている 僕の 心のように”(『夕陽が泣いている』より、作詞:浜口庫之助)
と、必ずしもそよ風さわさわな生やさしい恋をしているのでもなさそうです。
ブルコメのカバーがある
ねっとりもったりとしたグルーヴでジャッキー吉川とブルー・コメッツがカバーしています。長い前奏。
フルートの音色が凶暴です。意図的に歪ませているのですね。楽曲に独特の妖しい艶めきを与えています。魂の端から端までロックで反骨にあふれるクレイジーなフルート。ロックバンドに取り入れられたフルートでこういう攻めたアプローチのものって、事例に富んでいるとはまだまだ言い難い気がします。もっとみんなやってほしいですね。まるでブルースにおけるテンホールズハーモニカの位置付けそのものです。
そうだ、テンホールズの歪みを得る定番の機材、ギター用ミニアンプでクラプトンも使ったという有名な逸話のある名器・ピグノーズを通したマイクでこういうフルートを演奏するのも非常に痛快で面白そうです。
ギロ、カウベル、コンガなども入ってラテンの血もさわぎますが、どこかみんなで心を殺してのっぺらぼうで演奏しているような独特の妖気があります。やっぱりブルコメはさすがですね。バンドだし、コンパクトな純楽団です。
ベースやドラムがインすると音符の分割が細かく濃ゆく強調されます。間奏はパーカッション・ソロに、竿物楽器とドラムを復活させないままに狂気のフルートソロのち歌が復帰します。ハゲしいよブルコメさん。カッコ良し。
青沼詩郎
アナログ『夕陽が泣いている』を収録したアルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』(1967)
CD『夕陽が泣いている』を収録したアルバム『スパイダース’67/ザ・スパイダース・アルバムNo.3』(1967)
『THE TALES OF blue comets PAST MASTERS BOX 1965-1972』。『夕陽が泣いている』のブルコメカバーを収録
『夕陽が泣いている』を収録した『ジャッキー吉川とブルー・コメッツ GES-15232-ON 〜オリジナルヒット&GSカバー』
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『夕陽が泣いている(ザ・スパイダースの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)