Mother Nature’s Son The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)に収録。

The Beatles Mother Nature’s Son(2009 Digital Remaster)を聴く

ソフトな歌唱が想像の野原に私を優しくエスコート。左トラックのアコースティックギターが鳥や蝶がぴぴぴっとそこらへ飛んでは羽休めするようによく動きます。ただのリズムや和声の響きだけでなく、各弦が丹精に歌っている。弾き語りギタープレイ(録音上は同時録りかどうか知りませんが)として卓越した豊かなフレージングです。イントロのギターはビーンと指板やフレットにぶつかりながら響いたのか、なんだかシタールみたいな面妖な響きもあります。

ゴフっと圧迫感のすごい右トラックのバスドラム。キックドラムでなく、手に持ったマレットで演奏するバスドラムかと思います。ドライな音像です。入るところを限定しているので、鳥や蝶が舞うようなかろやかさを損ねない範囲でアンサンブルにビートの強さと質量を与えます。とても近い音像で私の耳を襲うので、もう少しオフマイクで(マイクを離して距離をとって)録っても良かったんじゃないかと思うほどの存在感です。……が、バスドラムに関して“マイクを2階上に立てて録音され、コンクリートの壁に反響することで残響音が加えられた”という記述がWikipediaにあります。実際は盛大にオフマイクだったのか。あるいはオンマイク(近接したマイクの立て方)にオフマイクの音をミックスしたということなのかわかりません。ビートルズはそのサウンドを確立した録音手法にも私の興味が向きます。

右トラックにブラスがあらわれます。2トランペット2トロンボーンの模様。ひょっとしてこれもポールが編曲したのかと一瞬畏れを抱きましたがジョージ・マーティンの編曲のようです。遠くを眺めて、雲が流れたり、時間を忘れて日が傾いていくようなスケールの大きさを思わせるブラスです。また左側のギターの動きとトロンボーンがブリブリっと同調した動きを見せるなど、ギターとブラスが譜面の外側で気ままに戯れあっている様相。

コツコツと謎の物音。ハンドクラップとも違うし、足で床を踏み鳴らしたのとも違う……スタジオにあった本を叩いた音だといいます。楽器の雄弁な響きとは違うこじんまりとしたキレの短く詰まった音が得られます。「コレ(本を叩く音)いいんじゃないかな。入れよう」というその場での機転の良さを感じます。

右のブラストラックが空くと追加のギターもその定位に入ります。複数のミュージシャンが成すブラスアンサンブルとMCバトルする腕利きのアコギ弾きよ。どちらも雄弁です。

Dメージャー調で演奏されますが、ヴァースをひとくさりやって小さな間(ま)に入ると、主和音を半小節だけマイナー和音にすり替えるみたいな響きのうつろいがまた面妖です。低音を保続してメロディや和声を上声部でうごかすなど、作曲やコードアレンジにみる手技が高等です。ポールの作曲・編曲・サウンドクリエイターとしての能力の高さが天真爛漫に発露しています。

コーラスというのか、歌詞のない“Do Do Do”……が言葉をもたない命の混沌(自然)との調和を思わせます。

ホワイト・アルバムにのどかで癒しの空間をもたらす秀作です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>マザー・ネイチャーズ・サン

参考歌詞サイト KKBOX>Mother Nature’s Son

ザ・ビートルズ ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

The Beatles『Mother Nature’s Son』を収録したThe Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)

ホワイトアルバム

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年) 

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Mother Nature’s Son(The Beatlesの曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)