The Air That I Breathe 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Albert Hammond、Mike Hazlewood。Albert Hammondのアルバム『It Never Rains in Southern California』(1972)。The Holliesがカバーしシングル、アルバム『Hollies』(1974)に収録。

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カラっとした音のエレキギターが何かを言い始めそうで本題はなんなのか……リズムや和声感がはっきりするまでのイントロが情景的です。

左右からそれぞれ、しゃくしゃくと注ぐアコギのストラミング。カポをつかってGメージャーのローコードポジションを活かした感じの響きです。ピッチ感に個性がありますがCメージャーキーでしょうか。

アコギの弾き語りで成立しそうな音楽性でもありますが、フルートっぽいの音色がすーっと入ってきて……ちょっとメロトロンのようにも聴こえたのでバンドメンバーの頭数等身大を尊重したサウンドでいくのかとおもいきや芯の凛としたストリングスが入ってきて音景が豊かになります。ホーン系の音も遠くに山岳をそびえさす趣。コーラスはバックグラウンドボーカルの声部も豊かで祈りが地平線に届きそう。

ベースとドラムがシンプルですがタムのフィルインが派手。ハイハットがまっすぐに8ビートを連ねていてもハイハットを止めずにオルタネイトストロークで演奏する語彙のタムが轟きますから、この印象的なタムタムは別トラックにオーバーダビングしたものと思います。

コーラスの声のトラック自体はすっきりした清涼感のある印象で、タムタムの熱量がよく映えます。

ちょっとねっとりした、かつひやっとした冷感もあるリードボーカルにキャラクターを感じます。

Albert Hammond The Air That I Breatheを聴く

左右からアコースティックギターがぽろぽろと繊細で豊かな情感を表現。うるうるのうるわしさを涙でぼかしてしまわないようにか、中央のリードボーカルの音像は極めてドライ(残響の付加がない)。反響を最小限にした放送室でマイクに向かって近距離で吹き込んだような音質が子音の破裂音まで明瞭に捉えています。

ストリングスの音色も残響のあとづけ感がなく、自然なルームアンビエンスがちょっと入ったかなというくらいで輪郭がはっきりしています。ぽろぽろと繊細なアコースティックギターのしぐれのようなアルペジオに、キリっとした輪郭のボーカルやストリングスの対比が気持ち良い……と思っていたら、後半で音の景色がトンネルを抜けたような大変化をむかえます。

エレキギターのぶすぶすっと歪んだ攻撃的な音色、しかしマイルドでコシのあるサウンドがねっとりと強いサスティンで倍音を加えます。ベースはビートルズのオブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ』かよとつっこみたくなる感じでごきげんに和声感をもって動きだします。サウンドをブーストしたあとのⅤm→Ⅳの流れのあたりのバックグラウンドボーカルは魂が天井を突き破って大気圏に波動砲を轟かせるみたいです。イントロのしとしと感はどこへやらという、スペクタル冒険映画のエンディング直前の大盛り上がりの様相です。

からの、しとしと感への復帰を果たして放送室で静かに物語を唱えるナレーターの元に私の魂は自動送還されます。

本当のエンディングを迎えて……あの中間部がはじまる瞬間のドッキリが延々とエンディングのあとにも繰り返されるようなまぼろしの私のわくわくをよそに、アルバム最終曲に配置されたこの曲によって一連の物語は綴じられてしまいます。

余談

Radiohead『Creep』の作詞作曲者クレジットに、『The Air That I Breathe』作詞作曲者のアルバート・ハモンド氏とマイク・ヘーゼルウッド氏が加えられているようです。Radioheadのあの名曲が、『The Air That I Breathe』の存在を前提に、新しい世代のアンセムとしてRadioheadによって『Creep』として送り出されたことが客観的に認められた……その結果としてのロイヤリティの一部の還元措置といったところでしょうか。

ホリーズによるカバーを聴いていただけのときは、「ああ、まあ、はい。確かにCreepと似ている部分・要素があるね」程度に思っていましたが、アルバート・ハモンドのオリジナルを聴くと、中間部以降の強烈なバンドサウンドのブースト……もっと具体的にいえば強烈なエレキギターのブーストというアイディアまで『Creep』と非常に相似しているのを実感しました。これなら、『Creep』はアルバート・ハモンドの『The Air That I Breathe』という創作物がこの世に提案した価値に後続する、深く関係のある新世代のアンセムだということの私自身は納得がいく気がしました。

その新世代という『Creep』も、もう30年以上前のリリース作品なんですけどね(この記事の執筆時:2025年)。

青沼詩郎

参考Wikipedia>Hollies (1974 album)It Never Rains in Southern California (album)

参考歌詞サイト Genius>The Air That I Breathe

『The Air That I Breathe』を収録したホリーズの『The Best of the Hollies』(1993)

『The Air That I Breathe』を収録したホリーズのスタジオアルバム『Hollies』(1974)

『The Air That I Breathe(安らぎの世界へ)』を収録したアルバート・ハモンドのアルバム『It Never Rains In Southern California(カリフォルニアの青い空)』(1972)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『The Air That I Breathe(The HolliesがカバーしたAlbert Hammondの曲)ギター弾き語り』)