横目の接吻
ザ・フーの『アイ・キャント・エクスプレイン』とそっくりなコード進行(キーちがい)を持ちます。
男女のカケヒキの歌。主人公はちょっとヨユウがあって、勝算があるのを見越しているような印象です。分かってて意中の「お前」を泳がせているようにみえます。「お前」の方も分かっていて主人公への視線を隠さずに他のオトコとの接近・接触をひけらかすようか。主人公は足元がどっしりさだまっていて、あたふたしておらずキモが座って見えます。お互いの横目と横目が接吻を交わす未来は時間の問題。
ロックの文脈を着用して華やかなブラスで肉付け色付けをほどこしジュリーの優位をいつも通りに演出する勝ちパターン(ガッツポーズ)!と思う勢いを錬成します。
8分音符の字脚で満たされるボーカルメロディがビートミュージックの門を正面突破。対してサビが「きっ! とっ! いつかは……」と、音と音のあいだに隙間が生じ、主人公の余裕のある態度、器の大きさを匂わせていて巧妙です。お前は主人公の手の内か……
意中の相手をさす人称に「お前」をもちいる態度もいろいろあるでしょう。主導権がどちらか片方にあってマウントをとる前時代的な恋愛アティテュードと解釈すると現代の多様・平等を重んじる価値観とは乖離があるかもしれません。時代性の相違がうかがえます。アーティストによっては歌のなかで「お前」を用いていてもまた別の味わいや読み筋を誘う作品もままあると思います。人称の使い分けや共通点に着目して、その目線を道標に時代の心をさぐって大衆音楽を聴き漁るのも非常に面白いテーマだと思います。
気になるお前 沢田研二 曲の名義、発表の概要
作詞:安井かずみ、作曲:加瀬邦彦。沢田研二のシングル『胸いっぱいの悲しみ』B面、アルバム『JULIE Ⅵ ある青春』(1973)に収録。
沢田研二 気になるお前(アルバム『JULIE VI ある青春』収録)を聴く
音が太くてドッカリとしていて、主人公の貫禄、居住いとサウンドが符合します。左に寄ったギターと中央奥からきこえるギターのリフではじまり、右にもギターがあらわれます。オルガンや金管も入っていますが補佐的なバランス感で、奥やサイドへの広がりと色味を演出します。オルガンのフレーズやポジションが非常に美味しい瞬間が私の目を引きます。
ドラムが乾いた音色でカドがまるく、ベースとともに重心の低い印象。本作、アルバム単位でロンドンレコーディングだそうです。編曲はHarry Robinsonとのこと。英語のWikipediaページをみるにスコットランド出身で、放送音楽の作曲などでも腕をふるった人でしょうか。ザ・フーなどを私が感じ取るのに対し音楽の地域的な遺伝子、精神面で何か通ずるものがあるのかどうか。
主人公にとって気になる存在、という意味の曲名であるのがストレートな解釈ですが、途中の歌詞に、“確かにお前は誰より イカシているけど みんながちやほやするから その気になる”(『気になるお前』より、作詞:安井かずみ)という節があります。“その気になるお前”という文字列から「その」を省略した解釈が見えてきますね。そして恋はもうすぐそこまでちかづいている。横目と横目がバチっと合って、キスをかわすまで秒読みです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>胸いっぱいの悲しみ、JULIE VI ある青春
沢田研二オフィシャルへのリンク 2026年、6〜9月に「freedom安堵courage」ライブツアー。現役のなかの現役です。
『気になるお前』を収録した沢田研二のアルバム『JULIE Ⅵ ある青春』(1973)