夜と朝が交わすあいさつ
『チャイナタウン』の主題がすべてを背負い象徴します。ヴァースから、主題フレーズの提示が強く印象に残ります。そこ(チャイウナタウン)をさすらい、出会い、別れる数多の仮想上の(あるいは現実の)「ふたり」がいるはずです。カメラ(視点)を運ぶ俺、おまえ、ぼく、あなたなどの登場人物はおれど、それいずれもモブであり、代替のきくNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)であるかのような神から目線の儚さが匂うのです。
ペンタトニック感あるメロディとシックスを感じる、根があるようなないような、こころのソワソワ感が描かれるコードの響きや曲調が青々しく清涼です。ボーカルメロディに上下、前後感がありふわふわした印象も受けます。厳然とあるのはただただ“チャイナタウン”の情景、背景。心はそこ(街、“チャイナタウン“)を流動・代謝する小さなピースでしかない……そんなはかない本質を暗示するせつなさが本曲の魅力に思います。
夜明けを思わせるストリングスのオープニング。口笛。女声コーラス。自分の外側の要素が街をつくり、訪れるものを迎え、新鮮な刺激をもたらしてくれるのと同時に、おのれが異邦人、フォーリナーであるヨソヨソしさも裏面に感じるのです。
アルバム『ドアを開けろ』最後に収録された曲。本曲によって、夜が明けての新しい一日のはじまりが示唆され、太陽の来光が待ち構えているような切ない背中をあたためる希望を感じる素敵なアルバム構成になっています。
チャイナタウン 矢沢永吉 曲の名義、発表の概要
作詞:山川啓介、作曲:矢沢永吉。矢沢永吉のアルバム『ドアを開けろ』(1977)に収録。1978年のシングル『時間よ止まれ』のB面にも収録された。
矢沢永吉 チャイナタウン(アルバム『ドアを開けろ』収録)を聴く
異常にキビキビしてタイトな働きをみせるベースの音像がストイックで筋骨が明確です。チャカ!っとエレキギターが2拍目の表と裏を短く光らせます。ドラムがシンプルなビートで直線的に流れていきます。車道に等間隔に打たれる道路標識や蛍光板みたいです。
そんなカッチリと堂々とした盤石なベーシックの上を艶と質量に富む矢沢さんのリードボーカルがさすらいます。先の項目にも述べたように、腰が軽い、雲をつかむような、はかない性格のメロディが自由な精神を提示します。残響をいっぱい連れて夜の匂いを想起させます。
カチっとしたベーシックリズムに、まっすぐに弓をひくストリングスも映えます。オープニングで、本曲のメインの調のFよりも半音下のEメージャー系の4和音からはじまって、半音ずりあがってメインの調のFにあがってカットが曲調の本体とつながります。人生のステージが新しいポジションに到達したような、朝の光が地平から漏れ出て猛烈に情景が塗り替えられていくようなドラマティックさを覚えるオープニングのストリングスが、楽曲の本体に入ってからも恒常的に弓をひきつづけ、それとたわむれるように矢沢さんのボーカルがひらひらと躍動するのです。「チャイナタウン」の華々しさ、異文化の交雑、流動性や光陰を想像させます。
青沼詩郎
矢沢永吉公式サイトへのリンク 2026年11〜12月に関西のホールや武道館ツアーがあります。
参考Wikipedia>ドアを開けろ、時間よ止まれ (矢沢永吉の曲)
参考記事 TAP the POP>山川啓介~矢沢永吉に「チャイナタウン」をひとり往くハードボイルドな男を見た作詞家 『チャイナタウン』作詞の山川啓介さんは青い三角定規のヒットソング『太陽がくれた季節』の作詞者。そうした青春歌謡作家のイメージを刷新する起点が、矢沢永吉さん作品に携わるようになったことなのだと読み取れます。携わる人のキャリアにすら革新を起こす実績が矢沢永吉さんの人となり、その規模感を示します。
『チャイナタウン』を収録した矢沢永吉のアルバム『ドアを開けろ』(1977)