どこまでも行こう(小林亜星作曲のCMソング)曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:小林亜星。ブリヂストンCMソング(1966)。山崎唯が歌唱。
山崎 唯 どこまでも行こう(『小林亜星CMソング・アンソロジー』収録)を聴く
メロディが私のなかに残っているのは後の世代に渡って多数の歌手・アーティストがカバーしたり、ときに一般の口々に宿り歌われたのを私が聴いてきたからなのでしょうか。いつどこで初めてこの曲を知ったか?と聞かれても、私はどこかで何かで聞き憶えがあると曖昧にしか答えられない。これはある意味すごいことです。まるで『グリーンスリーブス』みたいですね。
そしてオリジナルの音源がこんな様相だったということも今回聴いて初めて知るわけです。
山崎唯さんという歌手のものだそう。声がすごくユニーク……失礼承知でいえばヘンテコで、まるでザ・フォーククルセダース『帰って来たヨッパライ』みたいにテープの再生速度を録音過程のなかで変更してつくりあげたのではないか? と思えるくらいにユニークです。
実際この山崎唯さん『どこまでも行こう』のオリジナル音源においてもテープの再生速度変更処理を実際にしたためにこんなサウンドになっているのでは? と本気で思ったのですが、それも違う、やはりもともとの山崎唯さんの声がこれなのだと思い直します。
そのわけというのも、Eメージャーキーで、アコースティックギター1本のみの演奏でパフォーマンスしているようなのですが、Eメージャーの6弦の開放弦の音が入っているように聞こえます。
もしテープの再生速度を「速める」ことで、うわずったようなねずみがしゃべっているような独特の声質を得ようとするのであれば、Eメージャーキーよりも低いキーで演奏したのを収録してからになります。
しかしギターのレギュラーチューニングで、Eは一番低い弦の開放弦(出すことのできる一番低い音)です。これ以上低い音を出すには……半音下げか全音下げなどのレギュラー外のチューニングを施すことになってしまいます。しかしそれも苦しい。半音や全音下げたチューニングでE♭やDキーで演奏したのを収録して、あとからテープ再生速度を上げた程度のことでこのユニークなキャラクターが得られるか疑問です。
エンディングで山崎唯さんが、ナレーション……しゃべりをいれてもいます。これも声質はやはり独特すぎるくらいに独特なのですが、ある意味自然にも聴こえます。
以上の理由から、やっぱりもともとの声質・サウンドがこれなのだと思い直したわけです。山崎唯さんの元々の声にナンクセつけるようなことをたくさん書いてしまいましたが……失礼しました(といって、真実を確認したわけでもないのですが)。
「ブゥーン」とわきから合いの手を入れるような声は追加(オーバーダビング)で収録したのでしょうか。シンプルな編成に注意をひきつける効果・情報量・アソビ要素を与えます。
CMソングなわけですが、テレビ放送ももちろんあったかもしれませんがラジオCMとして音声だけ放送されたとしてもコマーシャル・メッセージがじゅうぶん伝わるものになっています。
どこまでも行こう
道がなくなっても
新しい道がある
この丘の向こうに
『どこまでも行こう』より、作詞:小林亜星
先駆者が何人も通って、たいらにならされたものが「道」のざっくりした観念です。「新しい道」というのは、本来矛盾したもの言いかもしれません。道のないところをがんばって通ることを何人もが試み続けることで、いつの間にか通りやすくなった「軌道」があらわれる。それが道です。「新しいなぁ」としげしげと「道」に対して思うことのできるポイントがどこからなのかわかりません。もちろん、近代的に、道路工事で固めてしまって、いついつから「開通」と決めてしまえば「新しい道」が選択肢のなかに急に出現したみたいなことはありえるかもしれません。それはさておき。
「丘」はただでさえ身体や心肺機能に負荷をかけて超えるべき障害物の象徴です。道を新しくひらく……つまり道のないところを通ろうとするだけでも十分チャレンジングでハードな活動ですが、まず「丘」があるのです。丘が視界をさえぎるから、行って(のぼって)みないとこの向こうがどんな景色かもわからない。
わからないものを征服するのにはリスクがあります。リスクを覚悟でチャレンジする人は多いか少ないかでいったら少ないのかもしれません。多くの人は、(すでに存在する)「道」を行くのですから。将来、「道」になるかもしれない通りにくいところを通ってみようというのには、それをする強い動機や意志や目的がともなうでしょう。意志の背中を押してくれそうなCMソング。素敵じゃないか。
青沼詩郎
山崎 唯『どこまでも行こう』を収録した『小林亜星CMソング・アンソロジー』(2002)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『どこまでも行こう(小林亜星作曲のCMソング)ピアノ弾き語り』)