個が成す輪

ビートルズの名前をそのまま冠したアルバムで、ジャケットはまっしろけ。しかも10番目のアルバムと来ます。ベストアルバム? いえいえ、最もかれらのクリエイティビティと自由さがありのままにお盆に(それも2つのお盆(Disc)です!)投げ出されたままにテーブルに供される、ある種の初期衝動的な「まっしぐら感」を強く匂い取ります。

このアルバムはその個別の楽曲のキャラクターがさまざますぎるゆえか、雑多、まとまりがないといった評をくらうこともしばしばあるようです。

今回本曲『Birthday』を聴き直して思った(気づいた・気になった)のは『Helter Skelter』のような激しいサウンドとの通底をうっすら感じた点です。「まとまりがない」といった評も(表層的には)一理あるとはしたためつつも、アルバムのなかのユニークな楽曲たちにもそれぞれ、「シッポリと詩情やメロディ美を伝えるモード」とか「音遊びにふける・走るモード」とか「激しいサウンドのバンドでヤンチャするモード」とか(これらは例えですが)、ある程度カテゴライズ可能な彼らなりのモード……たとえば気分とか、手法・やり方、大方針のなかに括られた中・小方針みたいなものとして、あくまで「まとまりがない」のではなく、リスナー側の目の付け所をもっと高い宙(そら)まで上げて広い尺度で見てみれば、非常に一筋縄のとおった、腑に落ちる美しいアルバムなのではないでしょうか……そんな漠然とした感慨が得られました。

誕生日はすべての人にある普遍です(わからない・知らないといったことはあるでしょうが)。

本曲は全ビートルズ曲中、最も和訳のハードルが低い部類でしょうか。歌詞のメッセージのレイヤーや比喩の鋭さ・複雑さなどよりも、サウンドや空気感、メンバーの輪を重視する態度を感じます。

冒頭のリフレインが頭にこびりつきます。ヴァースのメロディはなかなか愚直なまでに単純な部類でしょうが、激しいポールのボーカルの質感が耳を奪います。激しく熱量の高いサウンドながらも、フレーズごとのリードボーカルの間に緩急があります。

またブリッジのところにさしかかるとAメージャー調においてⅤの和音:Eメージャーコードをギャーンと鳴らし、リードボーカルがジョンになり開放的なパーティー気分を演出。コーラスになると“Birthday”との女声が加わり、サウンド的にも多様な人が混在する「パーティー感」があらわになります(女声はオノ・ヨーコ氏とバディ・ボイド氏とのことです)。

このアルバムの制作期間中に、レコーディングに用いる機材に革新的な変化があったといいます。4トラックから8トラックへのアップデートですね。複数のパートを同時に(あるいはテイクを分けて個別に)録音しつつも、音源としては個別に独立性を保って記録してあり、個々に音量や音質を調整できる状態……その回線の数が 4から8に倍増したというわけです。

この機材面でのアップデートにより、バンドメンバーが一斉に集まって「せーの」で音を鳴らす喫緊性(必要・絶対性)が薄まったことは厳然たる事実であり、このことがアルバムの作品の質やバンドメンバー間の関係や雰囲気と相互に影響したことも必然と思えます。

そんな本アルバムの中でも本曲『Birthday』はバンド:ビートルズの集団性が映った好ましいハイライトシーンのひとつだと思えます。世界中のどこかにいるあなたよ、誕生日おめでとうございます。

Birthday The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)に収録。

The Beatles Birthday(アルバム『The Beatles』収録 2009 Remaster)を聴く

ステレオバージョンを聴くと、左右に楽器がパッカリ分かれた音源の多いビートルズ作品ですが、これは中央に楽器がまとまっていてパワフルでホットです。……と思ったら、ボーカルが左右にパッカリ分かれています。

ズゥンと深い音色のベース、オクターブ違いでギタートラックがユニゾンし、冒頭のリフレインで印象づけます。間奏のところでこのリフレインの再現があり、フィルターがかかった鍵盤なのかギターの音なのか何かがゴモゴモと加工・汚しの聴いた音色で「しゃべっている」みたいです。

ギターリフレインの再現を経ると、楽曲中ここで一回きりのみ出てくるペンタトニックマイナースケール風のキメのフレーズでサオモノがユニゾンし、ドラムがバカ!っと決めるアクセントがカッコイイ。間奏を経て“I would like to dance” という、幼児とでも分かり合えそうな単純な態度のコーラスに帰結します。

ヴァースを経たときのドラムの表拍ビートの炸裂する空白が印象的です。ほかの楽器が抜けて、何を叫んでいるのやらガヤがすこし飛び交っています。ソロといえばソロですが、リードするフィルインをするでもなく、定型を裸にしているだけ。「ィヨッ!踊れ、本日の主役さん!」などといったニュアンスのかけ声が聞こえてきそうです。“Yes, we’re goin’ to a party party”のブリッジに入ると、チャチャチャチャチャチャチャチャ……と手がスッポ抜けてしまいそうなくらい猛烈な8分音符を敷き詰めたクラップが轟きます。リズムとか無視でパチパチパチ……とやった拍手がたまたま音楽と同調しているみたいな拍手です。

これだけ何十億単位のヒトが世界にいるので(そんな億単位でなくてももちろん)世界には同じ誕生日の人がいっぱいいるわけです。365(366)分の1の確率(?)で重なるわけで、大した奇跡でもない気もするし、でもやっぱり同じ誕生日の人と出会ったらちょっと嬉しくなりますよね。

ところで誕生日って毎年一緒(日付や時期・季節が同じ)だから飽きませんか? 飽き性のあなたは誕生日とは別に「誕生を祝う日」を毎年全然違う季節などに独自に決めて実行するとかどうでしょう。なんだかめでたさが不足してしまってどうか……? 特別に思えて、まぁその程度の些事が誕生日だなという気もします。アーティストや歌手などには誕生日も嘘のものを公式設定にしている人もいるでしょうね。なんだか夢のない話をしてしまったかな?

青沼詩郎

参考Wikipedia>バースデイ (ビートルズの曲)ザ・ビートルズ (アルバム)

参考歌詞サイト KKBOX>Birthday

ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

『Birthday』を収録したThe Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)