この起伏すら無視するのかい
似たかんじのサウンドの景色が延々と続きます。CキーでコードはⅠ、Ⅳ、Ⅴのみっつ。メロディは同音連打が多くソ〜ミの6度で歌えてだいたい安定した響きのところにずっといるので「僕を見過ごさないで(無視しないで、通りすぎないで?など)」といわんばかりでまさに主題どおりの意思を主張する存在感があります。
のどかなカントリーフィーリングに♭ⅲのまじったブルース臭あるボーカルメロディ。わかりやすくフラットしたブルーススケールの音階音にいないときであっても、ややフラットしたようなリンゴの歌の独特のピッチ感、ダブリングされたの歌自体の輪郭が楽曲の中心にいると同時にフック・アクセントとしても常に機能します。
曲の途中で大きなブレイクがあります。曲がおわった?と思ったらリンゴの堂々のドラムフィルインで息を吹き返し私の心は拍手喝采。曲のはじまりかたと終わり方は、なんだかぬるっとはじまるしおわったかとおもったらフィドル調のヴァイオリンが長く残るしで、まんなかにあるデカめのブレイクを含め、似たサウンドが長く続く割には録音作品の聴き心地としてはなだらかかつ高低差の大きな起伏が表現されていて好感です。
Don’t Pass Me By The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Richard Starkey。The Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)に収録。
The Beatles Don’t Pass Me By(アルバム『The Beatles』収録)を聴く
左定位からピチョピチョとゆらめく加工のきいたピアノ。リンゴの堂々ドラムも左定位にふってあります。コンプがきつくて潰れたかんじ、ギュっと握った泥団子みたいな質量の詰まった感じのドラムサウンドです。
右側定位にポールのベースがふってあります。このふたりのグルーヴのコンビネーションが絶品です。ベースなのですが、1小節4回のストロークが楽曲の実直に進むテンポ感を掌握しているのですが、この音の切り方とか弾ませ方が絶品、もう特級品です。これに対して左定位のリンゴのドラムプレイはハネ方をおさえて、というかむしろスクウェアビート的なニュアンスです。どちらかがハネたら、どちらかはスクウェアにする(ベースとドラムの関係の話です)とバンド内のグルーヴがよくなるという話を聞いたうろ覚えがあります(細野さんか林立夫さんあたりだったか、すみません曖昧です)が、この音源はまさにそれのモデルケースだと個人的に思います。
右側定位にすこしひかえめなバランスでコヨコヨゆらめくコード楽器の響きがいます。あくまで和音楽器は左のトラックが中心で右のトラックは補佐的なバランス感。
その右定位にはフィドル調のヴァイオリンが入っています。ノドカなかんじで、ピッチ感や音の端々のノイズ感がラフな質感もあり、音源にいい塩梅のカジュアルさをもたらしています。一発録りのデモ音源とりあえず録ってみた、みたいな空気をキャッチした質感は案外「ホワイトアルバム」のアイデンティティをなす重要な要素だと私は思います。単音でよく動きもするし、1拍目あたりで複数の弦をいっぺんに弾いて和声音の響きをまじえるヴァイオリンプレイです。エンディングでこいつが、バンドがおわっているのにいつまでも残ります。僕を無視しないで、ドント・パス・ミー・バイの思念を永続させ、マスターフェーダーが照明を落とします。
大きなブレイクや、バンドでいっぺんにはじめたりおわったりしないなんだか半端なはじまり方と終わり方に録音作品としての起伏がありますし、曲の最中、4分の4拍子があくまで基本ですがちょこちょこ変拍子すなわち2/4拍子の中途半端な小節を挿入して(あるいは4+2拍=6拍子の小節?)、リスナーの聴く集中力を換気します。でもボーっと聴いているぶんにはPassしてしまうくらいごく自然な変拍子です。無視されてもいいんだか無視してほしくないんだかよくわからない。いずれになっても結局は仕方がないねという諦観がブルースなのです。
スリーコードのただのカントリー、にしてはやはりビートルズらしい、革新的なんだかテキトーなんだか仕掛けに満ちているんだか、それらの要素が複合した独自性と奥行きがあり、ビートルズキャリアのなかでは初めてのリンゴの単独ソングライティングが本曲とのことですがなかなかに堂々の存在感を放っていると思います。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ドント・パス・ミー・バイ、ザ・ビートルズ (アルバム)
参考歌詞サイト Genius>Don’t Pass Me By
ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク
『Don’t Pass Me By』を収録したThe Beatlesのアルバム『The Beatles(ホワイト・アルバム)』(1968)
参考書
『ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド 』(中公文庫、2015年)