かまってちゃんな気疲れ

Ⅰ→Ⅶ→Ⅳ→Ⅴと、心の乱れを知覚しつつふたをして安定を図るみたいなコード進行にけだるげな鼻歌が乗ります。ミ・ファ#・ソ#(ⅴ・ⅵ・ⅶ)との低音を合図に、いきなり始まるヴァース。会うなり気疲れが顔に出ているシーンを見せます。「お前、どうした?!」とでも言ってほしいわけででもなかろうに、言ってやらなよりはましか……かと思えば急に激昂するヴォーカルが心配になるくらいに怖いです。隠れかまってちゃんな主人公の精神の起伏の落差を暗に想起させます。

二面性あるヴァース〜ブリッジに対してロックンロールコード(5th→6thの反復が特徴の伴奏定型)を敷いた同音連打を含むボーカルメロディがリズムで満たし、その響きとともに心の安定を図ります。

ブリッ!ズゥーン!とブルージーに歪んだギター。ベースはやわらかく音を伸ばしたりキュっと短く音を止めたりセクションの進行に合わせてかまってちゃんな主人公を博い心で抱き止め寄り添います。ドラムのモッタリとしたグルーヴ、16分割のフィール、アタックと余韻などにみるアクセントと深みと訛り感の絶妙な塩梅にリンゴ・スターにしか叩けない独特のアイデンティティを感じるサウンドで、私的な倦怠感や気疲れを主題にしているようでいて、心の翳りこそが万人の普遍なのだと思わせる演奏の魅力がいぶし銀です。2枚組アルバムのDisc1のB面2曲目収録。

I’m So Tired The Beatles 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Lennnon-McCartney。The Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)に収録。

The Beatles I’m So Tired(アルバム『The Beatles』収録 2009 Remaster)を聴く

左トラックにドラムが寄っています。基本8分割のフィールなのですが、たま〜にゴーストノート的に16分割のウラウラでスネアに触るのです。その瞬間に、この奏者が感じているグルーブがあらわになります。「跳ねている!」そう、跳ねているのです!(あえて重複・反復)。

そっとベッドのシーツをなでるようなやさしい声のヴァースから、セクションが進むにつれて激昂するボーカル。エレキギターの質感も、出だしはもの静かですがだんだんと豊かになっていきます。

ドラムが16分割を出すあたりは、アディショナルトラックにドラムをオーバーダビングしているようです。左寄りが基本なのですけれど、中央に追加のドラムの音色があらわれてきます。たまに「ティロリッ!」と鳥が短く鳴くみたいなオルガンのグリッサンドがタイミングよく入ったり、まるでメロトロンみたいなアナログ臭のする鍵盤の音色が入ります。ピアノの余韻もズンと豊かな質感で彩ります。疲弊しつつも2面性の強い主人公を前面に補佐的なボーカルトラックの前後感と熱量がセクションに変化を添えます。

ソングライティング面で(楽曲として)滑らかさ・穏やかさもありますし、かといえば鋭く不安の影を入れる調和と混沌の精神描写の対比が巧妙で精緻、かつ上記したようにサウンド面・演奏面に堂々とあらわれた録音物としての価値も非常に高いといえましょう。私、これかなりビートルズ作のなかでも指折りに好きです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>アイム・ソー・タイアードザ・ビートルズ (アルバム)

参考歌詞サイト JOYSOUND>I’m So Tired

ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク 

Far East Beatles Express>あまり語る人がいない「I’m So Tired」についての考察 楽曲の名義や制作環境・背景、特徴の抽出、歌詞の内容とその意匠についてなどを満遍なく、現在に通ずる愛をもって概説するフェアーな記事でしたのでリンクしておきます。ビートルズ愛好家/ジョン・レノン信者をプロフィールとするFar East Beatles Expressさんのnote記事です。

『I’m So Tired』を収録したThe Beatlesのアルバム『The Beatles』(1968)

参考書

ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I’m So Tired(The Beatlesの曲)かまってちゃんな気疲れ【ギター弾き語り・寸評つき】』)