サビ反復の肯定歌
草加出身とのことで埼玉のサザンと謳われることがあったとか。本曲を収録したオリジナルアルバム『これも大事』の収録曲には草加や越谷といった埼玉の固有の地名が出てくるものがあります。楽しんで聴いてみてください。
「〜ないこと」と否定の定型の押韻を三回繰り返したのち、「信じ抜く事」と肯定形に覆すサビ前半4小節が力強いです。
愚直なほどに8分音符で埋め尽くすリズム形の前半4小節に対して、後半4小節のメロディにはオクターブ跳躍があらわれ、8分音符中心だった音価に4分音符が目立ち、「涙見せてもいいよ」とリスナーを抱きしめる器の広さをみせます。
イントロを経てサビはじまりの楽曲です。2コーラス目のサビ以降はそのままパッヘルベルのカノンをパロディした風のオチサビ、そのままバンドのパワーを復活させつつ「オー、オオオオ〜」といったカウンターのボーカルラインがあらわれるサビが続きます。
サビのパターンは「負けない事」……で始まる前半4小節は共通で、後半4小節が①「駄目になりそうな時……」と②「涙見せてもいいよ」の二つの歌詞パターンに分かれます。
2コーラス目のサビで①②を立て続けに放ったのち、オチサビ①、バンドのパワーを取り戻しボーカルの対旋律「オー・オオオオ……」をともなったサビ①、そのサウンドスケープをキープしてサビ②、対旋律の「オー・オオオオ……」のボーカルパートもシンガロングに合流・同調してサビ①、なんならハーモニーに分かれてサビ②とサビの楽節を綴ります。
8小節単位をもしサビの1単位として数えれば、2コーラス目のサビ①②を起点に含めて、合計7単位のサビを立て続けに唱えるのです。オモテ拍のストロークのプッシュが力強く、サビのメロディ自体がもつ8分音符で埋め尽くすリズムも力強く、そうしたまっしぐらなエネルギーを宿したサビをこれでもかと執拗に繰り返す楽節構成が圧巻です。
これだけ力を注げば大事な「それ」がなんなのか分かるよね? と問いを立ててみる。はい、もちろんこれだけ言ってもらったら憶えました!「負けない事・投げ出さない事・逃げ出さない事・信じ抜く事」ですよね? とは確かになるのですが、ではこの羅列の示す具体はというと実に観念的で、何に負けない事なのか、何を投げ出さない事なのか、何から逃げ出さない事なのか、何を信じ抜く事なのか? はリスナーに任されています。「それ」が大事なのだと、全霊で7回……いえ、サビはじまりの冒頭①②と1コーラス目のサビの①の小計3単位も合計すれば楽曲中全部で10回サビの大プッシュ。たっぷりと時間をかけた反復であなたの「それ」を大肯定します。
それが大事 大事MANブラザーズバンド 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:立川俊之。大事MANブラザーズバンドのシングル、アルバム『これも大事』(1991)に収録。
大事MANブラザーズバンド それが大事(『GOLDEN☆BEST – 大事MANブラザーズバンド』収録)を聴く
音の景色の恒常性が入念で執拗。Bメロのところでビートがハーフタイムテンポ風になる緩急は認められますが、基本起伏や緩急はなるべく丸めてサビの良さを中心に楽曲を聴かせる態度です。
左のズッズク・ズッズク・ズッズク・ズッズク……と歪んだ乾いた音色のギターのリズムが恒常的にずっと張り付きます。ドラムのハイハットの音色なのかシッシキシッシキ……とシェーカーにも似た音色もエレキギターのリズムと対をなすように16分リズムの「タッタカ」を長く敷き詰めます。ピアノやシンセの類が要所をコーン、ちゃらーんと彩ります。
オケのトラックの恒常性を地盤に、ボーカルトラックの付加によって色付けをみせます。上ハモがあらわれるBメロ。後半のサビではリードボーカルがダブルになり、やがてトリプルになりエネルギーをなみなみとまといます。オチサビのところではストリングスの音色もあらわれてサウンドスケープに大きな変化を来たしますが、特筆する音景のターニングポイントはおおむねその程度でしょう。
アレンジに大仰な変化をもたらすのは1回くらいで十分。あとはサビのトップライン自体の良さやテッパンのカノン進行様態のコード進行にまかせて、ボーカルトラックのちょっとした色付けくらいで入念に聴かせていく。おそらく、大衆の耳の注意は「声」の情報に強く引かれる傾向があるのでしょう。楽器パートの編曲面であの手この手するのももちろん音楽の生命の一側面ですが、それと対等かそれ以上に、ちょっとボーカルにハーモニーを加えるとかダブル(あるいはそれ以上、シンガロング)するとかによるリスナーの耳への影響力は大きいのです……と仮説したくなるのが本曲『それが大事』が備えるアイデンティティ。
自分に負けるな、自分を投げ出すな、自分から逃げ出すな、自分を信じ抜け!と解釈してみます。
青沼詩郎
参考Wikipedia>それが大事 (大事MANブラザーズバンドの曲)、これも大事、大事MANブラザーズバンド
『それが大事』を収録した大事MANブラザーズバンドのアルバム『これも大事』(1991)
『それが大事』を収録した『GOLDEN☆BEST – 大事MANブラザーズバンド』(2005)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『それが大事(大事MANブラザーズバンドの曲)サビ反復の肯定歌【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)