儚くも美しき都市を遊泳

『I Will Follow You』 の元曲、『愛のシャリオ(Chariot)』をフランス語で歌ったのがペトゥラ・クラーク。フランス圏の人? かと思えばイングランド出身。歌手活動のさなか、フランスでのちのパートナーと運命的な出会いを果たしたのをきっかけにフランス圏での歌手としての活躍を経て、また英語圏でのヒットを獲得したのが本曲。

サビのところの歌詞の「downtown」のメロディは移動ドでいう「ソー・ミー」。下行音形が主題の単語のdownの語感を表現します。

downtownのニュアンスは繁華街の中心地帯、ビジネス街といった解釈が主流だと思います。downとtownを個別に分解し、あまりにも愚直に訳すと日本語でいう「下町(シタマチ)」のニュアンスを歪曲して導いてしまいそうですが、古くから馴染む住人や町工場など中小企業・事業者が共存する居住区と商工業がまじった街≒日本でいうシタマチは、英語でいうdowntownの主な解釈とはいくぶん異なるように思います。

ペチュラの楽曲『Downtown』の「ソー・ミー(移動ド読み)」の主たるモチーフに私はダウンタウンを訪れる主人公の異邦人(来訪者)然とした安寧を求める根無し草の孤独を感じます。視点や角度、あるいは時刻や季節によって景色や色彩が刻々と変化する華やかな刹那性と表裏一体の都市の器の大きな安定した印象を低音保続のうえで変化する和声が醸し出します。壮麗なバンド・オケの響きに、浮かぶとも沈むともなく悠然と漂う輝かしいペトゥラの歌声が美しくもたくましい名曲です。

Downtown Petula Clark 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Tony Hatch。Petula Clarkのシングル(1964)、アルバム『Downtown』(1965)に収録。

Petula Clark Downtown(アルバム『Downtown』収録)を聴く

響きのあるピアノがしっぽりとした室内で右トラックから聴こえてくるイントロ。

やがて音数が増えて右にバンド。左にオケとバックグラウンドボーカル、真ん中にペトゥラの定位の都市:Downtownの音像が見えてきます。

リードボーカルとリズム補完のコール・アンド・レスポンスでかけあうコーラス。グロッケンのアクセントが効いています。都市の通りのネオンや街灯やなんや。きっぱりとした左定位で、低いストリングスの対旋律が映えます。ぶわぁっと湧き起こる低音金管はトロンボーンでしょうか。

転調してのトランペットソロの間奏に心惹かれる私。都会にはすごい人もモノも集まって多彩な催事がなされている……出会いと探究のドキドキを思わせる展開に感動します。

エンディングにはミュートをつけたトランペットがセブンス(短7)を交えた音程でオルタナティブなスケール(音階)。異国のにおいも流れ着く都市の交雑性、飽くなき変容のポリシーを表現。スネアドラムのダイナミクスもズンドコと騒がしくなり、いつのまにかお祭りの中央に足を踏み入れたのを自覚します。狂乱のさなかでフェイドアウトで枠納め。生演奏だったら主和音に着地して終わるんでしょうか。毎日が心華やかなDowntown。

青沼詩郎

参考Wikipedia>恋のダウンタウンDowntown (Petula Clark song)Downtown (Petula Clark album)

参考歌詞サイト Genius>Downtown

Petula Clark – Official Siteへのリンク

表題曲を収録したPetula Clarkのアルバム『Downtown』(1965)