孤立から踊り出よ

本曲を収録したアルバム『スーベニア』の発売時期(2005年1月上旬)と、赤いジャケットのあざやかでめでたい印象が、ポップソングが極めて最先端の鮮度を持ちその瞬間の時候を表現する儚く刹那な表現媒体である事実に誇りを持っているように感じます。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONが『フジエダ EP』を発売(2026年3月25日)。アジカンと親交のあるバンド、スピッツのメンバーの三輪さんと田村さんは藤枝出身ということで、スピッツの楽曲『ナンプラー日和』が収録曲にチョイスされました。テンポはやめのアジカンアプローチは、パンキッシュなアレンジと相性が良さそうだったから……といった主旨の選曲理由を含んだ制作話がビルボードジャパンサイトのインタビュー記事にうかがえますので読んでみてください。後藤さんが創立する特定非営利活動法人 アップルビネガー音楽支援機構は、滞在型音楽制作スタジオMUSIC inn Fujiedaを設立。そこで収録できるサウンドの周知モデル……“名刺”のようなものになるようにとの意向を兼ねて制作されたのが『フジエダEP』とのこと。

楽曲『ナンプラー日和』は琉球音階が特長。ⅱとⅵを抜いた5音音階を採用するとこうした琉球っぽいアプローチになるでしょう。独特の浮遊感と悠久な安定感の折衷に成功したスピッツ流ポップロックの傑作です。

ずっくずっく……カーンカーン!とエレキギターのリズムや高鳴るライドシンバルが表拍4つを強調しダンスミュージックの性格を与え、人の輪(和)を思わせるお祭り感。

しかしその「輪(和)」を穿つように孤立の実在を思わせる歌詞「イジメだらけの世界でも」が非情。楽曲も中盤をすぎる頃「新しい踊りを発明した」の歌詞の一行に、個人の至る境地の賛辞を覚えます。輪を抜きん出ることで獲得できる革新もあるのだと。

ナンプラー日和 スピッツ 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:草野正宗。スピッツのアルバム『スーベニア』(2005)に収録。

スピッツ ナンプラー日和(アルバム『スーベニア』収録)を聴く

ちゅんちゅんと鳥、こんこんと手に持てそうな太鼓、ギターのフィードバック……祭りの遠鳴りのような空気感から曲がはじまります。けれど、日常こそ「祭り」なのかもしれないと思い直します。

からんからんと乾いた響きを醸す三線がドラムのライドシンバル、リズムギターとの一体感をみせます。右のほうの定位でフワーっと風に舞い上がるポルタメントのシンセトーンの上行音が柔和な耳ざわりでわくわくした気持ちにさせます。リードボーカルのハーモニーに個の人格の多重性を思います。一人の人間の考えにも、生理状態や気分によってブレが出ることでしょう。

大サビ「曲がりくねった」〜「新しい踊りを発明した」のところでトリプレットの分割が入念に、サウンドはベンドアップするエレキの歪みとともに重さを増して質量が肥大して感じます。その直後から間奏に入り、エレキの上行音が向上心や挑戦心を表現。一歩ずつ成長を獲得する個の歩みを賛辞するように上行音形にハーモニーを加えます。ツインギター様態のサウンドです。ここに無言のカタルシスを感じます。歌詞がなくとも、演奏によってそうした上向きの心の体現に成功しており、爽やかで潔い香りがします。

ナンプラーは一般に魚醤のことだと思います。沖縄、の観念を思い浮かべながら長音「ー」でおわる単語を連想するとチャンプルーなどを私は思い浮かべます。カチャーシーとかもそうでしょうか。ナンプラーの単語が主題に含められているところにも、ちょっとしたヒネリを感じます。ポップどまんなかな存在感を放つようでいて、フックの塊でもある二重性がスピッツのヤバイ(中毒的にステキ)なところです。

ASIAN KUNG-FU GENERATION ナンプラー日和(『フジエダ EP』収録)を聴く

大・豪・音。ドラムの低域がすごいです。スピッツの硬質なドラムサウンドとは好対照。右のリードギターが忙しく動き、三線のプレイスタイルにみる華やかで細やかな動きを映し取って思えます。左にも対になるギターがいて、ずどーんと歪んだサスティンやリズムで支えます。

カチャーシーで天に向かって交互に持ち上げる手のひらを思わせる上行音形を極太の音像で演出するベースもスピッツのよく動く田村さんのベースとはまたキャラクターが違いますがいずれにせよ活発。サビおわりの「Woo……」のところの跳躍音程で突き上げるボーカルに後藤さんらしいお印を感じます。

三線でもないがギターでもないアコースティックな撥弦楽器は、三線の「サワリ」のサウンドを意識したカスタムを施したウクレレだそう。左右それぞれに定位したギターの間の空間になじみ、ハードなサウンドのバンドに前後感をもたらします。当初は三線を使う意思だった旨がうかがえるポストを後藤さんが投稿しています。

重壮な響きが圧巻。ハネ方が少し平らで、ストレート(スクエア)寄りのグルーヴでヘヴィなサウンドとスピード感を両立します。途中でリードボーカルが入れ替わり清涼感が漂います。ギタリストの喜多さんによるボーカルでしょうか。響きのポジション高めの声色でスピッツオマージュ感が漂う大サビが映えます。

スピッツのエンディングは4拍目のウラいっぱいまででリズムを止めていますが、アジカンバージョンはバンドの熱量をおさめるべく次の小節の頭までリズムを打ち、男性終止ではっきりと終尾のコントラストを強く打ち出します。

圧倒的な音の轟き、増幅感。MUSIC inn Fujiedaではこんな音が録れるものと……アジカンの音楽性にもぴったりなのでは(設立者がメンバーなので当然かもしれませんが)。スタジオもところによりデッド~ウェットいろいろだと思いますが、空間の自然な響きを活かしたスタジオなのかなと想像が膨らみます。一度は滞在制作で訪れてみたいものです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>スーベニア

参考歌詞サイト 歌ネット>ナンプラー日和

スピッツ 公式サイトへのリンク 

ASIAN KUNG-FU GENERATION 公式サイトへのリンク

『ナンプラー日和』を収録したスピッツのアルバム『スーベニア』(2005)

『ナンプラー日和』を収録したASIAN KUNG-FU GENERATIONの『フジエダ EP』(2026)。こちらもジャケットの基調色が赤!