理想と非情
タイトル(曲名)からしてインパクトがあります。自分の、こうでありたい、こうであらずにはおれないというありのままの姿、行い、生き様でいるだけで、誰しもの理想や欲望が交差しぶつかり、誰しもがお互いに大迷惑を掛け合っている現実をしめしめと嘆くでも陰口をいうでもなくバンドのワサワサガチャガチャしたサウンドと曲想に乗せて朗々と謳歌してみせる態度が勇ましく清くハッキリスケベかつわかりみな名曲たるゆえんです。
心に警鐘を鳴らすダブルタイムテンポ。「ドッカッドッカッドッカッドッカ!」と1小節内に4つのキックと4つのスネアがずらりとひしめくビートが、単身赴任先(?)へと主人公をかっさらう外的制圧要素の絶対的強度を思わせます。
振れ幅のすごいキテレツな音楽性でありながら、大衆の心の鏡写しに適応する串を通すのはサビの「この悲しみをどうすりゃいいの 誰が僕を救ってくれるの」ではないでしょうか。世の人の悩みや悲しみ苦しみの具体条件・特徴はそれぞれに違えど、「この悲しみをどうすりゃいいの 誰が僕を救ってくれるの」というフレーズは万人に通ずる柔軟で可変に富み、やり場のない心のもどかしさをわめき散らし浄化を試みる普遍の魂のシャウトです。
ユニコーンメンバーらの現実の姿、属性(すなわち外在的要素)としては「転勤を命じられる会社員」とはいくぶんかけ離れて思えますが、歌の内容のなかに導くキャラクターの降霊術、イタコがつくづく上手いなと思います。ミュージシャンとして生きようと、会社員として生きようと、己の望みとかけ離れた環境・条件に追いやられる憂うべき事態は誰にでも起こりうる非情です。
理想と現実の乖離、縮まぬ距離、覆せぬ劣勢に「お前のその苦境への嘆きは本当にやり場がないよな!(わかるよ)」……と認めをくれるのです。愛や恋のパートナーとの成就や関係の安寧・安泰などに「理想」を設定せずとも、さまざまな理想との乖離を包含する、個人を超越し集団・社会を覆うスケール感があります。
ユニコーンのデビュー3年目にしてのファーストシングルで、本楽曲は同年のサードアルバム『服部』に収録。『服部』ジャケット写真の被写体はメンバーではなく年齢や属性のかけ離れた1人の男性の顔が大写しになった構図。しかもアルバムタイトルの「服部」さんなのかと思えば被写体の人物は中村福太郎さんというそうです。もちろん、「誰だこれ?!」という疑問と好奇心を促す観念上のシンボル:「服部」を中村さんが演じて写ってくれているとの解釈もまた自由でしょう。
本楽曲単位でみても、アルバム単位でみても、ミュージカルのメドレーみたく音楽の文脈がとりとめもなく順不同に溢れ出す奇天烈珍奇で革新かつ王道な傑作です。
大迷惑 ユニコーン
作詞・作曲:奥田民生。ユニコーンのシングル、アルバム『服部』(1989)に収録。
ユニコーン 大迷惑(アルバム『服部』収録)を聴く
すごいスピードですごい情報量が雪崩れ込み、足元をぐらつかせ、心のコップの水をグチャグチャにひっくり返します。

はりつくように乾いた明瞭なエレキギターのセブンスの分散和音から、ウェットな響きをまとった硬質なドラムスがイン。楽曲を最後まで貫き、さらい、走り去ります。ベースはグリグリとオルタネイトのピッキングでまっしぐらに協調。
メロを支えるエレキギターの分散和音が猛烈。ブリッジミュートで抑揚をコントロールしているようか、ニュアンスが緻密です。メタルの音楽性を感じもします。
オケの種々の楽器の情報量。フルートやオーボエが非情な冷遇を労い宥めんと緑が萌えるように湧き上がります。それでも主人公の苦境は1mmも改善に向かうなどしません。なぐさめの言葉なんか耳から排除されるスピード感です。
サビでストリングスのボウイングの圧力がエモーションに肉付けをほどこします。シングルトラックのボーカルのサビは、後半のほうのサビでハーモニーを引き連れ始めます。赴任先の誘惑のボインでしょうか。
間奏のところはメタルよろしくな速弾きが猛烈で、目がスピード違反で火花を吹き上げるスロットリールに変わった気分です。間奏の終わりの4小節はオケと協調してキメの音形を平行移動させて音程を上げる1小節パターンを3度反復提示し、心はホラー映画を鑑賞している冷や汗気分。間奏明けはBメロに直結の構成です。
エンディングはサビのリフレインの分量にしっかり割きます。「逆らうと/首になる」とか、「帰りたい/帰りたい」など、サビと似ているパターンを利用しつつボーカルメロディのリズムの密度に調整・変化を与え、己の境遇への多角的なねぎらいを試行しますが常に理想はこちらに背中をみせ遠い距離の向こうを走っていってしまいます。大迷惑です。
ロミオとジュリエット、カンイチとオミヤなど、一緒になることを望ましく思う文学作品の登場人物・固有名詞と音楽の語彙・スタイルの借用のごった煮が流しソーメンの竹にのって私の箸の間をすり抜けていくスリルと「あーあ(行っちゃった)」な感じ。
“帰りたい 帰りたい 君は誰 僕はどこ あれは何 何はアレ お金なんかはちょっとでいいのだ”(『大迷惑』より、作詞:奥田民生)
己を見失うほどに酒に溺れた挙句の果て「お金なんかはちょっとでいいのだ」、急に嘆きの方向性が変わったくだを巻いたか……とも思うし実は万事に横たわり共通するのが経済・家計問題でもあるでしょう。「帰りたい」を連呼してフェード・アウトで遠ざかっていくエンディング。現実は非情です。


青沼詩郎
参考Wikipedia>UNICORN、服部 (アルバム)、大迷惑
『大迷惑』を収録したユニコーンのアルバム『服部』(1989)