海になれたら 坂本洋子 “真っ白な夢”へ至るドラマ
ジブリアニメ『海がきこえる』のエンディングテーマです。ヒロインの武藤里伽子を演じた 坂本洋子さんが歌唱した曲。彼女の儚くまっすぐで潮風のような歌声が純白な印象。“真っ白な夢”との歌詞の冒頭がうなずきを誘います。
ビートやリズム、歌唱そのものの質感はおだやかで、過去を顧みているみたいな感情のなだらかさのある実演ですが、メロディの跳躍や和音の移ろいに意外なドラマがたくさんおきています。Dメージャースケールのⅶの音にぴょんと飛び乗る上行跳躍だったり、なだらかな半音下行のベースの末に辿り着くⅣmのコードの響きだったり……リスナーの私をふりまわします。
イントロから、シンセサイザーで演奏したりプログラミングしたりする音色なのか、ハープシコードみたいな金属弦を弾いたような、それでいてウミネコか何かが鳴くみたくポルタメントで音程がずり上がって意図する音程に一瞬の時間的ズレののち到達するサウンドが込められていて楽曲の聴感上のひっかかり・個性と柔和な耳なじみのよさの両立をはかっています。またこの音色は『海がきこえる』サウンドトラックの各曲を聴いていると、ほかの楽曲にも登場するよう。本作品の印象を占める重要な音色なのです。
海になれたら 坂本洋子 曲の名義、発表の概要
作詞:望月智充、作曲:永田茂。スタジオジブリ若手制作集団による長編テレビアニメ『海がきこえる』(日本テレビ、1993年)エンディングテーマ。永田茂のアルバム『海がきこえる サウンドトラック』(1993)に収録。
坂本洋子 海になれたら(アルバム『海がきこえる サウンドトラック』収録)を聴く
まっすぐ歌っているひたむきで一生懸命で実直な印象です。一切しゃくったりせずにきれいに上行跳躍で目指す音程のストライクゾーンに精密に侵入する歌唱が尊く純白な印象です。裏声が出せるタイプの女声歌手ではないでしょうか。坂本さんはもともと舞台などに出る役者さんの活動のほうに比重があったのかもしれませんがそれはさておき。
ピアノの音色とストリングスが伴奏の主成分です。ちょっとぶつけた音程、付加する音程、解決を宙吊る非和声音などの濁しのきいたピアノやストリングスが響きに揺らぎをつけ、純白で真っ直ぐな印象の歌声に明暗のコントラストを与えます。ピアノやストリングスの音形の作り方の変化によっても魅せます。Bセクションに入ったときのピツィカートが心の階段をポンポンとかろやかな足取りで昇るような弾んだ印象で効果的です。ここでポリ〜ンとシンセサイザーでつくったような向こうの次元の神からサウンドみたいな音色が入るのも、心になにか気づきの風が吹き込んだみたいで純朴なサウンドに広がるきっかけをあたえます。
リズムものの楽器があんまり入りませんが、楽曲なかほどから長いサスペンデッドシンバルロール。それからティンパニのロールもmp〜mf(メゾピアノ〜メゾフォルテ)くらいで儚げに加わります。あと後半でシューシューとスネアの打面の肌をこするブラシワークみたいなものが海風っぽい演出に思えます。
歌っているのはヒロインの武藤里伽子を演じた坂本洋子さんですが、映画のほうを最後までみると、主人公の杜崎拓(演:飛田展男)の真意、たどりつき、明かされる本当の気持ちを表現した歌詞・歌の内容なのかもしれないなとも思います。映画は主人公らの高校生時代くらいまでのころと、大学なんかに進学してから以降の頃合いの時代の大きくふたつに分けられる時代が描かれます。前者の時代への未完成だった想いや心情に歌詞のフレーズ末尾で「Good bye」と決別と儚げな感謝の念を添えているのかもしれません。
青沼詩郎
参考Wikipedia>海がきこえる (アニメ)、海がきこえる
海がきこえる – スタジオジブリ|STUDIO GHIBLIへのリンク
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『海になれたら』を収録した『海がきこえる サウンドトラック』(1993)
長編アニメ『海がきこえる』(1993)。DVD、Blu-ray。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『海になれたら(坂本洋子の曲)“真っ白な夢”へ至るドラマ【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)