青春期のたしなみ

シングル『恋におちたら』(1995)B面に収録されたのが録音物としての最初の発表のようでしょうか。ソメイヨシノの写ったジャケがトレードマークのアルバム『東京』(1996)収録曲です。2026年8月26日に30周年記念リマスターがリリースされます。円盤をぜひ手に入れてほしい。『東京』というアルバムの先をまだまだ行くよ!あるいは『東京』という本作にはまだまだ影響を与え続ける未来があるよ!との頼もしさを思わせる曽我部さん本人による近況ポスト(Xアカウント)など横目に……

“娘さんたち気を付けなコーヒーの飲みすぎにゃ”と、コーヒーに恋愛を重ねて依存やハマりすぎへの注意を促す結びのラインが楽曲のたどりつく結論でしょうか。恋もコーヒーも、力のいれどころ、その力加減をまちがわせる、アンバランスに歪にさせてしまうほどその主体の行動言動に影響を与えます。

「花咲く朝の通りへと」や、「カップのふちすれうれにたっぷり入ったのが好きだな」など、はつらつとしてみずみずしい青春を思わせる作詞が妙味です。多分歴戦のベテランになってしまうと、カップのふちすれすれまで入ったコーヒーだとか、白いクリームをたらしこんだコーヒーだとかより、適切な余白をもって注がれ、カップのたたずまい自体にすら美しさが薫るブラックコーヒーを好むようになると私は思うのです。本曲はあくまで青春期におけるコーヒーと恋愛をかけあわせにしている。青春期こそ、人生のパワーソースの割き方、力加減を学習する境界人間期でしょうから。自律的で自立した個人として自由を謳歌できるのが嬉しい。暗く深い底なし沼=コーヒー=恋愛に誘われた青年期の人に歯止めをかける経年学習はいつでも不足する。誰もがうっかり足をふみいれる。それがコーヒーであり恋愛なのではないでしょうか。

本曲の耳コピーと実演を試みてみて実感するのは、曽我部さんの書く曲は様式の幅広い音楽愛好者の引き出しのツボをおさえているようでいて、かつ意外性と革新性に満ちていることです。私の鈍い喩えでいえば、ある時代を象徴するファッションを取り入れていても、今この瞬間の自分の生活思想との接合をはかっている感じ。自分のテンポやリズムや高揚・起伏を尊重してその特定のファッションスタイルを自分に添わせている(着こなしている)。はかなげで繊細な歌唱ややわらかなアコースティックサウンドの体裁をしていても、一貫したある種の頑固一徹さすら暗に串通しされてういるのが曽我部さん・サニーデイ・サービス作品の凄みではないでしょうか。

メロディや歌詞などの小さな単位を愚直に繰り返したりしない。どこを切っても金太郎飴なんかじゃない。変化し、個人が貫かれている。「おれはこうしかなれない」「おれはおれのおもうものに、どうにでもなれる」が同居しているんです。単語ひとつひとつにあてがわれるイントネーションすら解体と再構築が試みられて、楽曲の独自性に直結しています。

コーヒーと恋愛 サニーデイ・サービス 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:曽我部恵一。サニーデイ・サービスのシングル『恋におちたら』(1995)B面、のアルバム『東京』(1996)に収録。

サニーデイ・サービス コーヒーと恋愛(アルバム『東京』収録)を聴く

アコースティックギターとリードボーカルはほとんどモノラルで成立する音像。少しだけ右に高いハーモニーのボーカルのオーバーダブの定位が振ってあるでしょうか。リードボーカルの描線はダブリングになっています。境界人間(青春期)のアイデンティティの輪郭のブレを思わせます。

アコースティックギターの高音弦がリズミカルにトップライン、オブリガードを演じます。ぽろぽろと各弦を機能させる達者な弾き語りスタイル。間奏にはカズー。ご機嫌なフィールを思わせます。エンディングにはコーヒー屋でサンプルしてきたような環境音にまぎれ、アルバム『東京』の主題への焦点からカメラの幕引き。

コーヒーの多様な苦味や酸味、あまみ、風味の豊かさを象徴するようにマイナーコードからメージャーコードにすり替えたり、ゴドゴド(ドッペル・ドミナント)の和音を用いたりと音楽の響きがひょうひょうと変化します。青春のコーヒーの味を謳歌する本曲の人格に、どんなベテラン・シニアに脱皮した未来が待つのでしょうか。

青沼詩郎

参考Wikipedia>東京 (サニーデイ・サービスのアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>コーヒーと恋愛

サニーデイ・サービス ROSE RECORDSサイトへのリンク

『コーヒーと恋愛』を収録したサニーデイ・サービスのアルバム『東京』(1996)。2026年8月26日に30周年記念リマスターがリリース。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『コーヒーと恋愛(サニーデイ・サービスの曲)青春期のたしなみ【ギター弾き語り・寸評つき】』)