かんかん照り 井上陽水 いやな夏、走る
じっとりとまとわりつくようなサウンド。ピックベースのじくじくしたサウンドがいやらしい。その上に井上陽水さんの暑苦しいのか清涼なのか次元の狭間から鳴っているような歌声。サビが「う〜〜あ〜〜」みたいに母音をスキャット的にのせます。いやな夏が……うぅう〜あ〜……夏がはしるぅうぅ〜あ〜……言語を超越した夏の倦怠。主体を置いてけぼりにして夏がひとり走りします。どこまでおまえは暑くなるのか……あるいは人間の社会活動に地球が憤怒しているのか。2026年(この動画の投稿の時期)あたりの未曾有の地球全体の暑さを予見していたかのような本作。1970年代頃ならまだ風通しの良い縁側とうちわや扇風機や打ち水でどうにかなっていた時代だったかもしれない当時を思うと、井上陽水さん流に暑さをおおげさに言ってみて、直射日光で帽子を忘れた子供が亡くなるとか、水道水が煮えたぎるとかハラハラどきどきする衝撃的な映像を描写したのかもしれません。ほぼ本当のことになってしまいましたね。
痛烈な社会風刺だとか現代批判だとか解釈するのはユーザーの自由です。歌の主体はそんなことを言いたいのかもしれないし、そんなことまで意味したのじゃないともいえるでしょう。さらっと表現したことが真実と重なる自然さに井上陽水さん作品の鋭い独創性が見出せます。いやな夏だ……と言わずに済む夏にしていきたいですね。
かんかん照り 井上陽水 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:井上陽水。井上陽水のアルバム『陽水Ⅱ センチメンタル』(1972)に収録。
井上陽水 かんかん照り(アルバム『陽水Ⅱ センチメンタル』収録)を聴く
アコギのハンマリングをまじえたソロをお供にストイックに歌い出します。モノクロで殺伐とした雰囲気。左にがっつりアコギが寄った定位で歌が中央に入ってくる不安定な定位に、じくじくしたエレキベースの音色が入ってきて家屋の屋根輪郭がカゲロウとでもいうのか暑さでゆらめいている様子を想起させます。このエレキベースの歪んだ音色は煮えくり返る暑さの権化なのです。
やがて右にもう一本のアコギ、ドラムスも入ってきます。ドラムは手数というか音圧が少ないのが帰って不気味です。ハイハットをチッチッチっとやっているだけとか、リムショットをつかってみたりして静か。あるいはしたたり落ちる汗をライドでちーんと表現したかとおもえばそれっきり力なく床で砕けた汗の水滴みたいに黙り込む。エレキギター不在の不穏なロックサウンドの模範です。不気味が最高。
サビで井上陽水さんのリードボーカルがダブリングになって、暑さで意識朦朧としてしまった気分になる。エンディングは冒頭のギターリフレインに帰って女性終止で意識がノックアウト。夏の走りはやがて翳ります。
青沼詩郎
井上陽水 オフィシャルサイト [ Yosui Inoue Official Site ]へのリンク
『かんかん照り』を収録した井上陽水のアルバム『陽水Ⅱ センチメンタル』(1972)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『かんかん照り(井上陽水の曲)いやな夏、走る【ギター弾き語り・寸評つき】』)