止められない情念
「萌える」でなく「燃える」。情熱、情念の燃えくすぶるにおいがしてきそうなタイトル。映画と同名の主題歌をハイ・ファイ・セットがみずみずしいリードボーカル、ハーモニー、壮麗なオケでうたいます。
情愛の常に不安定で揺れ続ける心を映すかのようにコロコロ和音の響きの人格が変わります。もはやホラーかよと紛糾したくなるくらいに妖艶な和音の移ろいです。
「ララルー」でなめらかな半音の動きのボーカルメロディでいやらしいコト(濡れ場……)をジェントルに詭弁で相手を納得させて済ませて(コトに至らせて)しまうみたいです。歌詞のある部分のセクションのバリエーションやそれらの組み合わせによる構造が複雑なわけではなく、比較的シンプルな2コーラス構造が軸になっているのが観察者に課される負担としては唯一の救い。
作詞者の五木寛之さんは『愛の水中花』(松坂慶子さんが歌唱)の作詞をした作家さん。小説、映画、ドラマや商業音楽にまたがるマルチな才能ですね。そしてこの愛のくすぶりと秋に燃える木々の木葉がたずさえる色の深みを鮮やかにメラメラと映しとる音楽の作家は武満徹さん。編曲は田辺信一さんによるものとのことです。愛の炎は紅葉に同じく個人の理性で止められるものではなさそうです。
燃える秋 ハイ・ファイ・セット 曲の名義、発表の概要
作詞:五木寛之、作曲:武満徹。映画『燃える秋』(1978)の主題歌。ハイ・ファイ・セットのシングル(同年)。
ハイ・ファイ・セット 燃える秋(『ハイ・ファイ・セット BEST SELECTION』収録)を聴く
ヴァイオリン族とピアノのユニゾンによるモチーフのイントロ。山口百恵さんが歌った『いい日旅立ち』みたいな旅情に神秘のもやがかかったみたいです。ドラムスのちくちくと繊細なハイハットの沈み込みが沈痛。サビになるとビートが快速急行に乗せられたみたいに進みだします。間奏でAセクションにもしも快調なリズムセクションがついていたらこんな感じ、という夢を見せられる。でも実際に歌詞があるところのAセクションは緩慢な、余白の多いリズムセクションになっています。
サックスの肌をなでるようなスムースなプレイ、息のなす繊細な音色のニュアンスが大人です。バックグラウンドボーカルがふわっと薫るたび「ニューミュージック」という得体の知れないジャンル名ってこんな感じかななどと思うのですが……ミュージシャンらの職能に裏打ちされたポップソングの芽吹き……とくらいしか私には説明できません。
ぱらりとエレクトリックピアノがかおります。エンディングにいたって、「ハァ〜、ララルゥ〜」と新しい光がみえてくる。間奏で雄弁したサックスがなぐさめるみたいにやわらかい指遣いで涙をぬぐいます。
「家」を見出す旅の道の途中でふと雨上がりの虹を見た。そんな気分にさせる浄化の一瞬がエンディングにつくだけでなんとか救われるものです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>燃える秋、ハイ・ファイ・セット
参考歌詞サイト 歌ネット>燃える秋
『燃える秋』を収録した『ハイ・ファイ・セット BEST SELECTION』(1986)
Hi-Fi Set
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『燃える秋(ハイ・ファイ・セットの曲)止められない情念【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)