境界を溶かす感性
100s(ひゃくしき)のメンバー山口寛雄(Bs)さん、玉田豊夢(Dr)さんと小谷美紗子Trioをやっておられ2008年のアルバム『Odani Misako Trio』収録の『Who -08-』があり同年のテレビ朝日ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』(内野聖陽さん主演)主題歌になっています。2016年の作品、ピアノと歌のトラックだけで構成したアルバム『MONSTER』にも別バージョンが入っており、ご自身にまつわるキャリアの内外の動機からたびたび本曲を取り上げているのをみるに、ご自身にとっても重要な1曲なのかなとお察しします。ミスチルとのツーマン対バンツアーや、ミスチルのピアノやコーラスのサポートに抜擢されてもいたりと多様な経歴をお持ちでその才能を評価するアーティストが多いようです。
本曲はBセクションでくるりの『ばらの花』みたいなコード進行の展開になりそこがサビっぽく感じるのですがさらにCセクション“La la la you geve me geve me love”……とのフレーズが来て神々しい印象、ここが真のサビだったのかなと私を光に包みます。そのCセクションの途中に「ゆら」「ひゅら」「ぃらぃ」などなんと書き起こしていいのやらわかりませんが、境界をぼかすあいまいな発声・発音、言葉未満のあえぎ、なげきのような表現がなされていて、ソングライティングの確かさと対比が相まって本曲のアイデンティティを高めます。
歌詞のうえでは一応上記の境界をぼかすあいまいな発音は「I(わたし)」なのかもしれず、サビ(Cセクション)のおしまいに向けて“I remember who you are”と続き、主題の『Who』がここに至り回収されます。美しく儚く、私的な想いが広く世界に溶けるようなスケール感を併せ持つロマンティックな曲想が素敵です。
Who 小谷美紗子 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:小谷美紗子。小谷美紗子のシングル、アルバム『CATCH』(2006)に収録。
小谷美紗子 Who(アルバム『CATCH』収録)を聴く
過不足なく完結した世界を感じます。ピアノを中心にしたトリオ、3人編成バンドの審美と可能性をまざまざと見せつけます。主音を上声や内声のなかでずっと叩きながら和音や低音位を変化させていく。何があっても芯を曲げない己と、へろへろと推移していく世界の2構築対立あるいは2構調和。
たとえばギターだと6本しか弦がありません。上声のなかに保続する声部(弦)をもたせるとなると、6本の弦のなかのひとつがそれにとられる(とらわれる)わけです。またギターはその楽器の特性を活かすデザインのせいか、近接した、たとえば主音と2度と3度を同時に鳴らそうなどとすると指板を押さえる指がかなりとんでもない配置になったり、あるいは開放弦の豊かな響きを活かすためにはキーがチューニングとの関係で限られたりと、不便とまではいいませんがそれがギターであるがゆえに強いられる・要求される工夫なども多いわけです。もちろんそうした壁を突破する閃きや挑戦にこそギターの面白さがあるのも事実です。
その点ピアノは88鍵盤。その気になれば、というかダンパーペダルを一髪踏めば88の音程をもつ弦がすべて一斉に共振する状況をいともたやすくつくれるわけです。
小谷美紗子さんらバンドの音を聴くと、そうしたピアノだからこその自由度を天真爛漫に謳歌し、鋭くピリっとした感性を流しこんだような緊張と調和の両立に打ちひしがれる想いがします。
声の表情はダブリング風になったり、サビ(?)でハーモニーのトラックをまとったりします。また少しだけピコピコ……とシンセのような人工的な音が薫る程度によぎり、3人編成の演奏のみの音の素地を活かして必要十分な化粧、音響的・空間的演出をまといます。
ピアノが、ベースが、ドラムが、おのれの語彙を試し磨き実践する空間がおのおの広く、それでいて干渉し、衝突し、高めあう関係を覚えます。
あなたは誰なんだ。おもいだせ。もともといたやつかもしれない。これから出会う宇宙人エックスかもしれない。輪郭のない疑問に無限の感性で臨み新たなる問いを突き返す勇猛な姿、態度に感動や希望が湧くのです。
青沼詩郎
小谷美紗子 -odani misako- Web siteへのリンク
『Who』を収録した小谷美紗子のアルバム『CATCH』(2006)
『Who-08-』を収録した『Odani Misako Trio』(2008)
『Who』(弾き語り)を収録した小谷美紗子の弾き語りアルバム『MONSTER』(2016)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Who(小谷美紗子の曲)境界を溶かす感性【ピアノ弾き語り・寸評つき】』)