トロピカルの風をまとう

バンドが消え一瞬マリンバの余韻が。靴音が駆けて去る……無音。靴音駆けて戻る。“この次はモア・ベターよ‼︎”(エコー)。こんなエンディングがしょっちゅう私の脳内に再生されるのです。

演奏に込められた圧倒的解像度は都市そのもの。そこを水や蜘蛛のように漂います。林立するビルのあいだを風のように撫で去る細野さんのボーカルが軽くも重くもあります。ハミングやメロディの輪郭・描線が透明にも思えますし、アジア地域の国旗にみる強い色覚の赤や黄色を引き連れても見えるオリエンタルなフィーリング。光にも闇にもなるし、あるいは万能色のようです。「ここは住めば都の大都市」が重複表現のようでありながら言い得て妙。中間部にまばゆく幻覚的なシンセサイザーが巨大な飛行船みたいに都市の上空を舐めます。

アルバムクレジットに高橋幸宏さん、坂本龍一さんの名前。イエロー・マジック・バンドと名義に冠されていますが、本作『はらいそ』のときにすでにYMOの構想があったものと思えます。トロピカル三部作とくくられる『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』を経ての本作。Paradiseのポルトガル語paraísoが訛ったのが “はらいそ(PARAISO)”とのこと。アジアやオリエンタル的なイマジネーションを湧かせる島々、国々の空や海や土を筆先にまといつつ日本をオーバーラップさせる不思議な独自性・ガラパゴス感がひらがな4文字の主題に象徴されます。

はらいそ 細野晴臣&イエロー・マジック・バンド 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:細野晴臣。細野晴臣&イエロー・マジック・バンドのアルバム『はらいそ』(1978)に収録。

細野晴臣&イエロー・マジック・バンド はらいそ(アルバム『はらいそ』収録)を聴く

細野さんのかろやかかつ地球よりも重く自由でかつ重力の中心にいるようなボーカルが尊い。一千年修行しても真似が及びません。

日本の音頭ミュージックとも違うのだけれどはずんだグルーブ。ささやかで奥ゆかしい。ミャンマーの人の柔和な微笑みみたいな弾(はず)み方が素敵。べースとドラムの息がぴったり合ってやわらかい空気の沿道にも道標がきちんとあります。右定位にぽきぽきとエレキギター。ブリッジミュートがはずみます。低い音域で小躍りしていたかと思えばいつのまにか雲の上に登っているみたい。

ぽんぽんとマリンバの音が樹上で揺れるヤシみたい。シロフォンの音色もいて、マレットの取っ手側で撫でたみたいなグリッサンドを繰り返します。ピアノの音にフェイザーみたいな効果が加わっているのかしら。思い出がの残像がにじむみたいな演出、きらびやかなオーロラがふりかかるみたいな音形。

中間のシンセサイザーがあまりに強烈なのだけれど調和しています。なんなんだこれは。

エンディングの靴音は1、3拍目をとりながらやがって1、2、3、4と各拍をとり、やがて2拍3連で駆け出しはじめます。両手に底の固い靴を持って「演奏」したのでしょうか。靴音がルームアンビエンスをまといます。無音ののち帰ってくるぞ……と思って構えて待っていると案外この無音が長い。やっと迎えて例のせりふを聴くことができます。この次はモアベターよ!といって、YMOの歴史がはじまるのでしょうか。まばゆすぎる。

青沼詩郎

参考Wikipedia>はらいそ

参考歌詞サイト プチリリ>はらいそ

細野 晴臣 | ソニーミュージックオフィシャルサイトへのリンク

『はらいそ』を収録した細野晴臣&イエロー・マジック・バンドのアルバム『はらいそ』(1978)。コラージュみたいにもナンセンス系にもみえる跳躍・時空・古今東西飛躍モチーフが正方形の構内をひしめき譲り合い調和したジャケット画、ちらっと細野さんの肖像が小さくこちらを向いている細部含め最高。