MV アニメと共演
壁への落描き風。絵が動きだし、メンバーと共演。メンバーは動く絵のほうに視線をやったり、絵に追われてみたり。ドラムスティック千手観音が印象に残ります。
メンバーの髪型やファッションも鮮烈です。ハートマークが胸を一周する強いグリーンのニットが強烈。ギタリストの金髪も強いビジュアルです。このメンバーに混じったら、平凡な装いの方が逆に浮くかもしれません。
後半には現実の映像が絵とクロスする演出。それまでの絵はペンキ調でしたが色鉛筆調の絵が出てきます。暖かさを感じるタッチです。贈り物の本質はモノではなく心なのでしょう。ボックス(箱)からハート(心)が出てきます。
曲の名義など
作詞・作曲:破矢ジンタ。JITTERIN’JINNのシングル、アルバム『Hi-King』(1990)に収録。
ジッタリン・ジン『プレゼント』を聴く(2021年発売ベスト盤『8-9-10!! (Ver.3)』収録)
トイピアノ風トーンは省かれています。バンドのオリジナルメンバーのみでライブ演奏による再現がしやすそうなミックスです。
ギターも基本、1本。間奏のギターソロではウラ打ちのリズムとソロが重ねてあります。ソロ明けの込み入ったストロークのかけあいもパニングした複数のトラックが用いられているようです(ひとつのトラックをコピーやエフェクトで振り分けたのかわかりませんが)。ピチピチと機材由来のリバーブ?が気持ち良い。サーフロックのような音色です。
ドラムスはキック4つうちにウラ拍のオープンハイハット。ミュートの効いたスネアの衝突音がタイトに響きますが余韻はウェット。ギターのウラ打ちとオープンハイハットの組み合わせが同じ打点。ギターはオモテ拍でブラッシング音をはっきり聴かせています。
ベースはコードの根音と第5音で4つ打ち。キックとピッタリです。
埋もれないボーカルの声質、まっすぐな発声。ノンビブラートといってよいでしょうか。芯があってプレーンな響きですがわずかに鼻か喉に擦ったような声質のキャラが魅力的です。
歌詞
“あなたが私にくれたもの キリンがさかだちしたピアス”(JITTERIN’JINN『プレゼント』より、作詞・作曲:破矢ジンタ)
逆立ちというか、上下逆につけてしまった外国製の安物……みたいなのでは? と私は勘繰ります。あるいはキリンの細い頭のほうにピアスのデザインとアタッチメントの接続部をもうけると強度に不安があるからそうデザインした品物なのでしょうか……というのは単なる私のイチャモンで、ちゃんと「逆立ちしている意匠」だとはっきりわかるデザインのものだったのかもしれません。だとするとだいぶユニークです。
“あなたが私にくれたもの フラッグチェックのハンチング あなたが私にくれたもの ユニオンジャックのランニング”(JITTERIN’JINN『プレゼント』より、作詞・作曲:破矢ジンタ)
押韻していますね。チェック→ジャック、ハンチング→ランニング。イギリス国旗をおもわせる柄のランニング……派手です。
高いんだか安いんだかわからないものもあります。白い真珠は高そうですね、偽物でなければ。
“あなたが私にくれたもの シャガールみたいな青い夜”(JITTERIN’JINN『プレゼント』より、作詞・作曲:破矢ジンタ)
それまでは具体物でしたがサビ前だけは抽象的な表現。創造と知に浸る時間を一緒に過ごした思い出のことかもしれません。ここまでの贈り物だけをみても、主人公の恋の相手は個性者といいますか、一癖も二癖もありそうです。
“大好きだったけど 彼女がいたなんて 大好きだったけど 最後のプレゼント bye bye my sweet darlin さよならしてあげるわ”(JITTERIN’JINN『プレゼント』より、作詞・作曲:破矢ジンタ)
そういうことでしたか。事後(別れの後)に贈られたものを振り返っていたのですね。
いろんなものを“あなた”からもらいつつも、最後の贈りものは主人公から“あなた”への別れ。相手から別れを告げられ、それを受け入れることを“さよならしてあげるわ”と表現しうると思います。別れの事実に比べれば、切り出したのがどちらからなのかは些事かもしれません。
“あなたが私にくれたもの グレイス・ケリイの映画の券”(JITTERIN’JINN『プレゼント』より、作詞・作曲:破矢ジンタ)
2番になり、より“あなた”のカルチャー好きが前面に出ます。“ヴィヴィアンリーのプロマイド”、“バディ・ホリーのドーナツ盤”、“ヘップバーンの写真集”、“アンデルセンの童話の本”……ふたりの間の共通の趣味なのか。あるいは、どちらかの嗜好に寄っているのか。“あなた”が、自分の好きな物を主人公に知って欲しいと思って贈っているかもしれませんし、そこまでの考えはないのかもしれません。
贈られた相手がまったくその方面に興味がなさそうだったら、いくら自分の好きな分野の物であっても恋のパートナーに贈るものかな? と疑問に思わなくもありません。私は、主人公もその分野にもともと興味や関心を持っている人なんじゃないかと想像します。あるいは、その気配のある人。そんな二人だから、出会って、恋仲になったのかなと想像します。
もちろん、誰しもどんな方面に変化するかはわかりません。人が「化ける」可能性を常に肯定しておきます。ことに、恋愛においては。
3番で特に気になる贈り物は“道で売ってるカレッジリング”です。いろいろなニュアンスに解釈できそうです。
どんなシチュエーションなのか考えてしまいます。ふたりで一緒に歩いていて、主人公が興味を示したから“あなた”が「買ってあげようか?」と提案したのと、主人公とは別行動しているときの“あなた”が自分の意思で勝手に買ってきたのとではだいぶ違う気がします。
いずれにせよ、あまり高級ではなさそうです。気さくに、構えることなく、値段のむこうにある本当の価値を提示しあえる仲だと思えばポジティブ。他方、「路上で売っている粗末なもの」ととらえるとき、二人の仲や関係も、当事者たちにとって粗末なものになってしまっているのかとも想像します。どうでもよくなってしまっているのは、“あなた”の方なのか、主人公の方なのかも含みがあります。
“マーブル模様のボールペン”も、「恋人間の贈り物」の文脈でとらえた場合、かなり“カレッジリング”に近いかもしれません。“中国生まれの黒い靴”も私の偏見では安価そうに思えます。
“ヒステリックなイヤリング”は値段不明ですが誉めているようには思えず、粗雑品もしくは著しく好みと違う品物を言っているのではないでしょうか。
“ボートネックのしまのシャツ” “アメリカ生まれのピーコート”は質が良くおしゃれなものもありそう。二人の関係次第で良い贈り物にもNG品にもなりそうです(なんでもそう?)。
2番と3番いずれでも、サビ前はやはり抽象表現。“夢にまで見た淡い夢”、“あの日生まれた恋心”。
プライスレスな事象を含めて贈り物に数えると、相手との関係がもたらしたものすべてがギフト・プレゼントに思えます。
彼女がほかにいるのに“あなた”は主人公に贈り物をしていたというのがタネ明かしなわけですが……
“あなた”にはいつからほかに彼女がいたのでしょう。主人公との付き合いの全期間にわたって他に相手がいたのでしょうか。
“プレゼント”の正体。「ひどい恋の記憶」「別れ」。ポジティブにとらえれば、人生経験。言い尽くせないたくさんのもの。抽象的な感情の動き……情動を“あなた”はくれたのかもしれません。
メロディのモチーフ
おもなモチーフを3段書き出してみました(上図)。「ラララララララシ♭・ラソソファソ」(“あなたが私にくれたもの”)。この音型をリフって「あなたがわたしにくれたもの」を描きます。Aメロ(平歌)はこれ一徹。
サビはモチーフがばらけます。およそ2小節ぶんずつくらいの、性格のちがうフレーズの組み合わせです(上図中2〜3段目)。
感想
メロのほとんどを同じモチーフの反復のみで聴かせてしまえるのは、アイディアがすぐれているからでしょう。
恋人のあいだで交わした贈り物。これを読んでいるあなたにも、きっとさまざまな思い出や記憶があるのではないでしょうか。品物自体も思い出すでしょうし、それを交わした相手のことを思い出すでしょう。その相手との間で起きたこと、感情の動きを思い出すでしょう。
モチーフはシンプルなリフレインでも、リスナーが自分の体験を重ねます。
ちょっと趣味・嗜好にクセがありそうな“あなた”と主人公が、交わされたプレゼントの内容を通して描かれているのが妙味です。
「自分が恋人からもらったことのある品物とはだいぶ違うな」という人もあれば、「わかるぅ、そういうのもらったことある!」という人もいるのではないでしょうか。
ちょっとクセのある具体物を歌詞に込めつつも、リスナーそれぞれに固有の体験を想起させるところがジッタリン・ジン『プレゼント』の秀逸なところです。交わすモノにも、人格は映り込むのですね。
歌・バンドの実直な演奏がこれをあますところなく伝えてくれるのも特筆の魅力です。
青沼詩郎
『プレゼント』(アルバム版か)を収録したJITTERIN’JINNのベスト『8-9-10 !!!(Ver.3)』(2021)
冒頭のオルゴールやトイピアノをミックスしたシングル版の『プレゼント』収録のベスト盤『ハッピーカムカム』(1991)
JITTERIN’JINNのオリジナル・アルバム『Hi-King』(1990)。収録の『プレゼント』はオルゴール・トイピアノなしのアルバム版。
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『プレゼント(JITTERIN’JINNの曲)ギター弾き語り』)