ビッキーズ。「みんなのうた」で、『赤い花白い花』の認知を広めたようです。

山本潤子の弾き語り。

赤い鳥の音源。

曲について

1970年の赤い鳥のシングル『人生/赤い花白い花』(1970)、アルバム『竹田の子守唄』(1971)に収録されています。

作詞・作曲者は中林三恵。彼女が歌ったのが群馬県の大学を中心に広まり、それが巡ってやがて赤い鳥メンバーに伝わった。当初は赤い鳥メンバーにはこの歌の作者が分からなかったが、ラジオで彼らが呼びかけることで作者が中林三恵(当時は遠藤三恵)と判明した。そしてシングルなどの音源化に至る……といった経緯のようです。

その後はみんなのうたでビッキーズに歌われる、芹洋子に歌われるなどの広まりを見せます。当初の赤い鳥のパフォーマンスは歌詞が2番までですが、芹洋子のものについては、芹洋子側の要望で中林三恵が書き加えた3番があります。

【参考サイト】

新井啓介 もうひとつの夕景工房 >「赤い花白い花」と中林三恵さん

ニコニコ大百科>赤い花白い花

赤い鳥『赤い花白い花』リスニング・メモ

ギター

右と左にそれぞれ振ったアコースティック・ギター。どちらも非常に透明なサウンドです。右がクラシック・ギターでしょうか。芯の柔和な音です。ナイロン弦のギター(ガット・ギターなどとも呼びますね)か。間奏ではオクターブ奏法で旋律を奏でます。

左はスティール弦のアコースティック・ギターでしょうか。イントロでは16分音符の細かいアルペジオで繊細で豊か。複雑な線を出しています。どんなハイエンドな楽器なのかと思う、素晴らしい音色です。

右はやや大まかなラインと主なカウンターライン、左はディテイールの細かいリズムとハーモニー面のバッキングといった役割分担です。

ベース

ベースはウッド・ベースですね。アコースティック・ベース、アコベなどと呼ぶこともあるでしょう。フレットがないので、フレットに頼らずに押さえる場所の勘所をつかみ、音程をつくる必要があります。エレキ・ベースやギターは通常、フレット・バーという金属の棒が指板に埋め込まれているので、フレット・バーに挟まれた範囲内でしたらどこを押さえても結果として音程はほぼ同じになります(押さえる圧力による音程の差異は生じます)。単にフレットのないベースをフレットレス・ベースということもあります。この場合はボディの大きさは普通で、指板に金属のバーが埋め込まれていないものを指すことが多いでしょうか。

赤い鳥の『赤い花白い花』で使われているのはコントラバス型のいわゆるウッド・ベースでしょうね。本体に響く深みが感じられます。

フレット・バーがある弦楽器は、そのおかげで瞬時に音程をつくれはするのですが、音質も金属の棒を起点とした弦が震えている音質になります。いっぽう、フレット・レスタイプの弦楽器は、押さえているその指からが弦の長さの起点になります。大袈裟にいうと、フレットのあるギターやベースを用いて、ハーフ・ミュートを効かせてプレイしたような音色になるのです。つまり、フレットのない弦楽器は、・サスティン(音の伸び、保続)短め・アタック音が柔和といった特徴を持つようになると私は感じています。

赤い鳥『赤い花白い花』の話から逸れてフレットレスの話にかかりきりになってしまって申し訳ありません。『赤い花白い花』ではそんな、柔和であたたかみのある音の楽器が選ばれているのです。

1・3拍目の強拍にコードチェンジポイントがあるので、ベースはそこに打点を合わせた演奏です。直前のウラ拍に8分音符を引っ掛ける定番パターン。オカズ(フィルイン)的に8分音符で動かすところを2小節〜4小節に一回のペースでつくっています。

ボーカル

山本潤子の透き通る声は財産。繊細な語頭の立ち上がり、抑制の効いた息の量とスピード。声帯への適切な支えを感じます。

イントロで鉄琴風の金属質な音がポーン・ポロンと鳴り、ギターがアルペジオし始めた直後のコーラスはなんと発声しているのでしょうか。He He? Hui Hui? ヘ・ヘ〜、フィ・フィ〜などと聴こえます。まるで神話や寓話のような遠さ、尊さ、畏れを感じる発声です。主題の「花」の儚さを表しているようでもあります。私を含め、地上のこまごました生者たちの肉体を時間が朽させるのを、遠くからいつまでもいつまでも見守っている……月のような神秘を思わせます。空にぽつんと浮かんで、くっきりとした輪郭をはなったり、かすむ空気にぼやけてぽかんと浮かんでいたりするのです。

イントロの以外では、歌詞でハーモニーパートを奏でたり、母音を伸ばしてカウンターラインで動くこともあるボーカルパートが儚く美しい響きを奏でています。

鉄琴?

私の耳をつかむイントロのポーンと浮かんだような、浮世離れした美しい音はオルゴールにも似て聴こえます。鉄琴にも似ています。ビブラフォンのような激しい揺れはありません。キーボードで出せそうな音ですが、生楽器でしょうか。澄んだ美しい音です。ドあたまのポーンという音と、それが済んだあとにコーラスが入ってくるところの音もまた違ったキャラクターの音色のようにも感じます。音域が違うからでしょうか。イントロが済んでしまうともう出てきません。エレクトリックピアノの音かな? とも思います。内部に鉄琴のようなものが仕込まれていて、それをハンマーが叩く音を電気的に増幅して出力する楽器です。

感想

私は赤い鳥の『翼をください』、『竹田の子守唄』などをこれまでに鑑賞しましたが、ますます彼らの音楽の豊かさと質感を堪能する機会を『赤い花白い花』はくれました。美しく神妙なアレンジ、サウンドの綾が見事です。ベースのポジションを2拍単位で動かす分数コードの響きをはじめ、その音楽はどこも非常に垢抜けていて、時代の移ろいに朽ちるどころかむしろ錬磨されて、ますます洗練が際立ちます。

植物の種子や花粉を運ぶ鳥。その前にも後ろにも、脈々と音楽の繁栄・進化・継承の赤き血がが流れています。勝手ながら私もその一端で、託された血潮を継がんとします。わずかばかりでも、今日この記事を読んでくださったあなたにも何かが継がれたことを願います。

青沼詩郎

『赤い花白い花』を収録した赤い鳥のアルバム『竹田の子守唄』(1971)

ご笑覧ください 拙演