石川ひとみ

まっすぐ前を見て歌っています。ズームイン・アウトしたり、ぐるりと被写体を中心に周ったり、いくつかのカメラの視点を切り替えて1人を魅せる映像です。歌唱、曲、歌い手本人のパーソナルが堪能できる過不足ない演出が好感です。現代のアイドルの魅せ方・パフォーマンスと全然違いますね。

時間を経た歌唱、その第一声にウワァッとくるものがあります。いい意味での変わらなさは積極的に保つことだと思いました。

三木聖子

石川ひとみの曲のように思っていましたが、三木聖子が先です。サビの高音、「むねのおくでずっと」「あなたをふりむかせる」あたりの声紋の質感に一瞬の悲痛。感情を煽られます。

荒井由実

松任谷由実が荒井由実名義でセルフカバー。レゲエを思わせる裏打ちリズムですがハネ感を抑えていてフラットなグルーブです。きらきらと絢爛な歌謡のステージ、時代の匂うホールを思わせます。途中やエンディングでは船のシーン。芸能や娯楽へのお金の費やし方や魅せ方が違った「ある時代」へのオマージュを感じます。船で外洋へ出ていく(実際は入江への帰港かもわかませんが)エンディングは「まちぶせ」という主題とは反対の表現にも思えますね。

曲について

荒井由実が作詞・作曲、三木聖子に提供。三木聖子のシングル発売が1976年(この年のユーミンは荒井から松任谷名義への端境?)。

石川ひとみによるカバーが1981年。石川ひとみは歌手としてこの曲にかけるものがあったそうです。

荒井由実によるセルカバーシングルが1996年。松任谷名義にしてすでに多くの時間が経っていますが、元の名義で出したようです。

三木、石川、荒井の3者版、いずれも編曲は松任谷正隆。三木〜石川版はアレンジのキャラクターを踏襲しています。歌手の個性の違いはもちろんですが、編曲面ではストリングスの歌い回しの微妙な違いなど味わい比べが面白いです。

荒井版は斬新に変えましたね。異国のニオイがする音楽と和製歌謡の融合が味わえます。

歌詞を味わう

三木からヒアリングして荒井由実が曲を書いたといいます。これには三木の実体験が入っているのではないかと思います。また、石川もこれに共感するものがあったそうです。こうした、生きた人間、リアルな人格を感じる歌詞が魅力です。戦略的な女の恋の物語は、フィクションであって実話でもあるのでしょう。

1番 提示部

“夕暮れの街角 のぞいた喫茶店 微笑み見つめ合う見覚えある二人 あのこが急になぜかきれいになったのは あなたとこんなふうに会ってるからなのね”(『まちぶせ』より、作詞・作曲:荒井由実)

1番は状況と登場人物とその相関図の提示です。

自分が思いを寄せる人。その人が、喫茶店に別の人といるところを主人公は目撃。夕暮れといっているので、課せられたものから開放された自由な時間帯を“見覚えある二人”は逢引きに費やしているのでしょう。

「あのこ」といっていますし、“急になぜかきれいになった”といっています。主人公の知り合いなのですね。主人公もあのこもあなたも、みんな関わりのある、共通したコミュニティの人間どうしだと想像します。同じ学校に通う学生同士といったところでしょうか。

夕暮れの街角の喫茶店は、きっと、同じ学校に通う者の目にふれる場所です。そういうところで、しかものぞけば見えるような席に二人はいたことになります。ここから、あなたとあのこの二人には関係を隠す意思がないこと、あるいは隠す意思があったとしてもツメが甘いことがわかります。

“好きだったのよ あなた 胸の奥でずっと もうすぐわたしきっと あなたをふりむかせる”(『まちぶせ』より、作詞・作曲:荒井由実)

主人公の思いのたけが伝わるサビ。あなたがふりむくかどうか、最後には「あなた」の意思が決めるところです。それなのに、“もうすぐわたしきっと あなたをふりむかせる”と、表現が予言めいています。これは自分の希求の強いあらわれです。そうなるかどうかはわからないけれど、そうしてやるんだという情念の強さが伝わってきます。

ここには、不安や妬みなどの負の感情も全部乗っかっていることを私は思います。この女(主人公)の、こわさや執着心です。きれいであたりさわりのない凡百の歌謡曲だったら、こうしたねじれた感情は扱わないのではないでしょうか。扱ったとしても、表し方に抽出をかけて無難なものにしてしまうのではないでしょうか。少女の胸に秘めた愛憎が、少女の言葉でリスナーの胸に飛んでくるところがこの曲が他と一線を画する魅力です。三木からの実体験のヒアリングが生きているのではないでしょうか。

“気のないそぶりして仲間に加わった テーブルをはさんで あなたを熱く見た”(『まちぶせ』より、作詞・作曲:荒井由実)

主人公は勇猛果敢です。見覚えある二人のもとへ突撃してしまうなんて。人目にふれる可能性のある喫茶店の中とはいえ、あなたとあのこの逢引きはクローズドで限定的な場です。招待されたわけでもなかろうにそこへ参加するとは、私が「あのこ」だったら宣戦布告ととらえるかもしれません。「(え、何この女。入ってきたよ……)」と、口に出さずとも顔に出てしまうのでは……。いくら“気のないそぶり”をしていようとも、夕刻の喫茶店内の二人を「放っておかない」のは、明らかな意図です。知っている人をみたら話しかけちゃうド天然キャラにも限界があるでしょう。「え〜、偶然だね。私? ちょっと、夕ご飯の前に今日の授業の復習しようと思って……そしたら二人がいて、びっくり!」とかなんとか言ってテーブルに参加したのでしょうか。ああ、こわい。こわいですよ?

ひとつ、「グループの中に見覚えがある二人が含まれている状況だった」可能性は捨てきれないので、その場合は彼女の果敢さ・強引さはもういくぶん控えめなものかもしれません。

2番 展開部

“あのこがふられたと 噂にきいたけど わたしは自分から云いよったりしない 別の人がくれた ラブレター見せたり 偶然をよそおい 帰り道で待つわ”(『まちぶせ』より、作詞・作曲:荒井由実)

なんと、あのことあなたは別れたのですね。それも、あなたがあのこをふったのだと。主人公はかなり鋭く人間関係を察する目がありそうです。あのことあなたは、いずれ別れるだろうという、結びつきの甘さを当初から睨んでいたのではないでしょうか。「ホラネ、やっぱり別れたサ」です。そうした、関係のスキを見とっていたからこそ、夕暮れの街角の喫茶店の二人のテーブルに参加などという芸当が可能だったわけです。「あのこ」からしたら、「あなた」には主人公のテーブルへの参加を突っぱねてほしかったかもしれません。あのこはそれを彼に言えなかったし、彼もそれをしてくれなかった。その程度の仲だったのではないか……と思ってしまいます。

朗報を主人公はうわさに聞くのですが、自分から云いよりはしないそうです。そのやり方がすごい。自分は他の人からラブレターをもらっているという事実を彼に開陳します。「私はモテるから、早く名乗りをあげないと他の人と付き合っちゃうよ」というけしかけでしょうか。あるいは、そういう打算が何もなく「自分の身にあったことをなんでも話しちゃうふり」をしているのでしょうか。あけすけにしてしまう仲を装って、彼に「今のままじゃダメだ」と行動を起こさせる魂胆です。いずれにしても、策士ですね。それも、なかなかまどろっこしく、必ずしも賢明とは言い切れない策です。ベストでなくても、自分はそういうふうにまどろっこしく関係を築きたいという意思・姿勢のあらわれでもありますし、願わなくともそうなってしまう人物なのだということもなんとなくわかります。

“偶然をよそおい帰り道で待つ” とあるので、1番の喫茶店のシーンでも「偶然」と騙って二人のテーブルに参加したのではないでしょうか。まぁ、そもそも目撃したのは偶然かもしれませんけれど。

この、“帰り道で待つ”こそが、この曲の主題です。主人公は恋の進め方も「まちぶせ」なのです。主人公はこの恋を実らせることに対して、かなり具体的な行動を起こしていることになります。ここに、主人公の強い情念があらわれています。“あなた”と主人公の間に、想いの温度差がある場合はかなりヒヤヒヤでグレーなアクションでもあります。反対に、すでに気になっている人に「ここにいたら会える気がして。そしたらほんとに会えたね」とか言われたら、普通に(いえ、非常に)かわいいですけれどね。

主人公は、まちぶせていたことは隠す方針です。自分の好意を表明し、その成就に向けてのトライ&エラーを露呈することよりも、偶然の一致や自然な流れのたまもの、それの至るところを美徳としているのです。失敗はこわいし、痛いし、恥ずかしい。リスク回避のための反射もはたらくかもしれません。思わしい結果が得られなかったときのダメージから身を守るために、まちぶせていたことは隠すのです。そのための努力は、作為を偶然や自然のたまものに見せるために割かれます。

後記

なんだか、まどろっこしいですよね。主人公は策略家のようでいて、かなり不器用です。まわりくどく、目的のために手段を選ばないという感じではありません。目的はあれども、自分にはこの戦略しかとれない。そういうブルースの響きをもって、この『まちぶせ』は私に響くのです。

また、一聴して関心をもっていく松任谷正隆の編曲、そもそもの荒井由実のソングライティングがすぐれていることは言うまでもありません。今回は歌詞があまりにも面白すぎたので、そちらに文のかさを割いてみました。

青沼詩郎

『まちぶせ』(1981)を収録した『40th 石川ひとみアンソロジー』

『まちぶせ』(1976)を収録した『三木聖子ベスト』

『まちぶせ(Album Version)』を収録した松任谷由実『Cowgirl Dreamin’』(1997)

ご笑覧ください 拙演