リスニングメモ

作詞・作曲・編曲:大瀧詠一。ストリングスアレンジ:松任谷正隆。須藤薫のシングル(1981)、アルバム『Chef’s Special』(1980)に収録。

大瀧さん印をひしひしと感じる壮麗な品と絢爛さ、みずみずしさのあるサウンド・編曲です。締まりのよいドラムスが口数少なめにキックを打ちつつ、熾烈な装飾をつけたタムでアクセント。サビ間のフィルインがみせどころで、メロとサビでの質量のバランス、対比のつけかたが巧みです。

タンバリンがリンと鳴り、フラッパー・カスタネットでしょうか、「カララッ」と燃え上がる花火が散るみたいに猛烈にウラ拍を鮮やかに彩色。これに、アコースティックギターがしゃんしゃんと間断なく、シャワーのように降り注ぐストロークを放ちます。ピアノの8分音符のダウンストローク。シックスの響きで根音上でコードに変化をつけるなど気持ち良い仕掛け。あちらからこちらから、よだれが出そうな大瀧さんの作家性を思わせるアレンジメントが拾えます。

ポンポンポンとストリングスのピツィカートがまたみずみずしく、表情の機微が豊かです。弦アレンジは松任谷正隆さん。

バックグラウンドボーカルもサウンドの厚みを担う重要な成分をふんだんに挿入します。須藤薫さんご本人のオーバーダブしょうか、歌詞ハモ、視線をひく動きのあるパート。

随所に独特の詰め込みかたをする歌詞のはめ方があり、The・コレ!的なポップソングの王道アレンジの一形態をとりつつ、曲に個性を与えています。するっとなめらかに歌う須藤薫のボーカル。日本的にいえば「サビ」は、いかにも洋楽的な「コーラス」を思わせるボーカルのリフレインがシンプルで覚えやすくもありますが、高い表現力に担保され朗々とした響きです。

歌詞 “息はずませ いつもの場所へ”(中略)“声はずませ”(中略)“胸はずませ”のところなんか、ことばの乗り方のリズム的なフックが効いているのが如実に感じられる部分です。各コーラス(サビ)に入るときの“Smilin’ face” “Smilin’ voice” “Lovin’ place”も「おっ」と垢抜けた感じで注意をひき、言葉が音楽と一体になって表現を彩り豊かなものにします。

歌詞 ブレないメッセージ

“いつでも Love You どこでも Love You Too Much Love You あなただけ Only You 夢でも Love You さめても Love You So Much Love You あなただけ I Love You”(『あなただけI LOVE YOU』より、作詞:大瀧詠一)

ぞっこんで、ブレません。メッセージがはっきりしています。みずみずしい音楽と一体になる、歌詞のひとつの理想の典型といってよいかもしれません。”Too Much”と、ときにちょっと支障をきたすくらいに狂わせてしまう愛のわびさびもほどよく混入しています。決して甘いだけでない。

吉田美奈子さんが歌った傑作『夢で逢えたら』を思い出させます。

“夢で もし逢えたら 素敵なことね あなたに逢えるまで 眠り続けたい”(『夢で逢えたら』より、作詞:大瀧詠一)

こちらもトロっとしそうな愛が主題だと思うのですが、シンプルなメッセージながらもちょっと寂しい表情の翳りが混じったような、オーバーにいうと、破滅的な愛の表裏が映り込んだわびさびが素敵です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>須藤薫

参考歌詞サイト 歌ネット>あなただけI LOVE YOU

『あなただけI LOVE YOU』を収録した須藤薫のアルバム『Chef’s Special』(1980)

『あなただけI LOVE YOU』を収録した須藤薫のベストアルバム『Tear-drops Calendar』(1985)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あなただけI LOVE YOU(須藤薫の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)

あなただけアイ・ラヴ・ユー