代名詞渦巻くドラマ

『スカンピン』ほか収録した名盤の1曲目。

登場人物が多いというほどでもありませんが、代名詞が多い。君にラブレターくれたあの娘。がいて、あの娘がいる。あの娘が恋にやぶれて電話をかける、その電話を受けるもいる。この曲の語り手は僕(主人公?)というひとつの解釈が立ちます。君とは誰? どこ吹く風のあいつは……と、あいつも出てきます。フットボールとロックンロールを愛するあいつ。涙に暮れてるあの娘に伝えてDJ……DJも出てきます。チェッカーズの涙のリクエストを思い出しますね。涙のリクエストは80年代なので、それ以前にもDJに懇願する表現は大衆音楽にうかがえるのが本曲を通してわかります。今夜はのデビューコンサートという表現も出てきて、奴もいることがわかりますが奴はどこ吹く風のあいつ、それから君と同一人物なのか。

こういった、入り組んだ代名詞がちょっとひねくれているような、恋模様をすこし距離をとって茶化しているようでもあります。また音楽的意匠の面でも、オープニングからジャズの定番『イン・ザ・ムード』のオマージュしたり、間奏のところで転調しギラつくDJのしゃべりが入ってきたり、音楽の面での茶化しぶりも凝っています。DJしゃべりはヴェト・ガラティさんによるものだそう。

ひねくれてはいますが君にラブレター♪とAセクションから愛嬌のある歌い出し。コンパクトな曲尺のなかに選りすぐりの遊びと情報量と代名詞うずまくドラマが表現されています。

あの娘のラブレター 鈴木慶一とムーンライダース 曲の名義、発表の概要

作詞:鈴木慶一・岡田徹、作曲:岡田徹。編曲:ムーンライダーズ、ホーン編曲:矢野誠。鈴木慶一とムーンライダースのアルバム『火の玉ボーイ』(1976)に収録。

鈴木慶一とムーンライダース あの娘のラブレターを聴く

文脈が深く遠く、解像度が高く、瞬間瞬間の演奏の機微に逐一意図や創意を感じます。蠢き、各パートのアイディアが入れ替わり立ち替わりあらわれて明滅します。

ドラムのサウンドの横幅がワイド。ハイハットの明瞭な粒立ちにぼすっとまとまりのあるスネアがラブレターにおとしこむドキドキの鼓動。キックの音色の質量がすごい。アタックの輪郭と丸い重さが両立しています。

きびきびと音を止めるベースプレイで豊かなアイディアがうごめくオケのなかにも空間の風通しの良さが提案されています。

右寄りにクラビネット。左寄りにバミョーンと伸びやかで輝きのあるエレキギター。アコースティックピアノがイン・ザ・ムード風オマージュを演じ、裏拍のひっかかったグルーヴを表現します。

鈴木慶一さんのボーカルはパンチがありますがオケとの協調関係を保つバランス感です。矢野顕子さんのボーカルもいるようか、バックグラウンドボーカルの音像やモチーフも豊かです。

Dメージャー調を基調に、間奏でB、E、A、Dの循環で転調したようなしていないような道化感をDJ喋りとともに表現します。

きびきびと止まるリズムが印象的なAセクションは、そもそもコードの響きに頼っていない感じが稀有。

誰のどんな心がこの楽曲の根底にあるのかがケムにまかれているのです。道化感、ピエロっぽいんですよ。語り手でしかない。あの娘や君や僕の顛末がどうなろうが、極論知ったこっちゃない。間奏のDJみたいな、「(楽曲や人物を)ご紹介します」的なマスター・オブ・セレモニーが語る歌の趣向を感じます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>火の玉ボーイ (アルバム)スカンピン

参考歌詞サイト 歌ネット>あの娘のラブレター

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『あの娘のラブレター』を収録した鈴木慶一とムーンライダースのアルバム『火の玉ボーイ』(1976)