歌詞 愛のこと、美しさのこと

あの素晴しい愛をもう一度』。この曲のテーマ、恋愛のことを思う。

“命かけてと誓った日から 素敵な思い出 残してきたのに”(『あの素晴しい愛をもう一度』より、作詞:北山修、作曲:加藤和彦)

“命かけてと”という表現が気になる。“誓う”のだから、これは命をかける側の意思だろう。命をかけて何をするのかが省略されている。それがこの曲で一番重要なテーマではないか。命をかけて…何? 「あなたを愛します」だろうか。「愛」とは人の間の関係にみる模様のようなもの。それを積極的意思によって生じさせようという動詞でもある。自然に降りてくる神秘であり、意思と理性の仕業でもある。「愛」は幅広い。そうした重み、奥行きが“命かけてと誓った日から”という一文の背景に宿る。

“あの時 同じ花を見て美しいと言った二人の心と心が今はもう通わない”(『あの素晴しい愛をもう一度』より、作詞:北山修、作曲:加藤和彦)

美しさにはそれぞれの尺度がある。何を美しいとするかの定義を言わせるブラインドテストをしたら、「二人」は違ったことを言うかもしれない(そんな意地悪なテストがあれば)(なんの必要があってか)。もちろん「二人」は似たことを言う可能性もある。ほとんど同じような言葉をつかって、感性の共鳴を思わせる表現をするかもしれない。そういう、奇跡みたいな「二人」の組み合わせもあるかもしれない。一緒にいるうちにそうなる可能性も考えられる。長く連れ添う「二人」は似てくるもの。でも、心の内はわからない。「美しさ」について、なんの示し合わせをすることもなく同じ言葉をつかって同じ説明をする二人がいたとしても、それぞれの心の内に秘めた「美しさ」の風景、その模様はまるで違ったものかもしれない。それくらい、「愛」は極端で幅のあるもの。

軽く爽やかな響き、歌

『あの素晴しい愛をもう一度』の印象として真っ先に浮かぶのはかろやかな歌声。穏やかに、平静な調子を保ったままサビまで歌い通す。主題たる、愛の重み・厚みとバランスをとるかのように軽妙な声色で表現している。

ボーカルパートをダブって(重ねて)録音していて、広がりがあって爽やかな響き。ギターもこれと相まったサウンドをしている。複弦のギターを使用、あるいはさらに複数の演奏を重ねているように聴こえる。ストリングスの伸びが余白を埋める。金管も入っていてさりげない。ベースはダウンビートのおしりに16分音符をひっかけるリズムでノリを出す。打楽器類は控えめで、いるかいないか判じかねるくらいだ。バッキングのリズム形成はほぼギターやベースのストロークが主役。

曲にまつわること

『あの素晴しい愛をもう一度』はシングル発売が1971年。『悲しくてやりきれない』『帰ってきたヨッパライ』などの有名曲も多い、元ザ・フォーク・クルセダーズの2人、加藤和彦と北山修の連名。女性フォークデュオ・シモンズのデビューのために書かれたという。それなのに加藤・北山で出した。シモンズのデビュー曲は『恋人もいないのに』。加藤・北山は『あの素晴しい愛をもう一度』をよほど重要視して、自分達名義で出したのだろうか。

1970年代前後のヒットソングとして非常によく名の挙がる曲で、発表当時は生まれていなかった私であっても、この曲と出会うのは必然だったと思うほど。カバーした歌手も多い。歌本を眺めるのが私は好きだが、手持ちのものにも掲載されていた。

愛にはいろいろあるだろうが、「素晴しいもの」と思わせる。ときに、そういう幻惑さえかける。もちろん、ほんとうに素晴らしいものでもあるのだけど。それをもう一度したいという回顧なのだとしたら、この曲のタッチは爽やかさを極めている。もっとドロドロした表現を連れてくる愛もありそうなものだ。

ときに、名曲の中には語りづらいものがある。コード進行に沿った響きの良いメロディで、観念的で何にでもあてはまりそうな言葉を歌詞に用いている……そういうものと巡り合うことがしばしばある。この曲も好例の一つかもしれない。この曲と私の直接のつながりが特に何かあるわけでもないし、実体験に紐づく思い出の一曲というわけでもない。それなのに、この曲のアイデンティティの何かを私は記憶にとどめているし、歌ってみたくもなる。ありふれた私の感性。ひねくれた私の感性。その両方にまたがって、心に橋をかけるみたいに。

青沼詩郎

『あの素晴しい愛をもう一度』を収録したベスト盤『フォーク・クルセダーズ・アンド・ゼン』

玉置浩二の『あの素晴しい愛をもう一度』カバーを収録した『群像の星』(2014)。彼の歌唱で聴くと、静けさすら生々しい。いちばん最後の“もう一度”というフレーズの音価を長くしている。

井上陽水によるカバー『あの素晴しい愛をもう一度』を収録した『UNITED COVER 2』(2015)。冒頭“命かけてと”という歌い出しからいきなり井上節がすごい。リズムセクションの引き算が際立つ。祈るように澄んだアレンジ。

ご笑覧ください 拙演