ムッシュかまやつのアルバム『ザ・スパイダース・カバーズ【+3】』(1989年、再発2010年)。これに『あの時君は若かった』が入っています。

リスニング・メモ

ムッシュのセルフカバー(1989)

打ち込みのリズム。シンセのフワァーとした音が厚みを出します。ドラムパートも打ち込みでしょうか? 明瞭ですしキックがグリグリビチビチとほとばしっています。ベースもいかにもなシンセベース。軽い感じのピアノのトーンはアップライトのモデリングサウンドでしょうか。エレクトリック・ギターのソロはさすがです。サクソフォンの合いの手も渋い。エンディングのシンセストリングスをずっと聴いていたくなります。発売時の1989年の「新しくてイイ音」のお手本ってこんな感じだったのかもしれませんね。打ち込みのクリアで臨場感ある音像に洗練された生楽器や声を融合させています。素晴しいセルフカバー音源だと思います。

ザ・スパイダースのオリジナル

ザ・スパイダース『あの時君は若かった』 (YouTube)

ザ・スパイダースのオリジナル音源もまたよく時代を映しています。エレクトリック・ギターのトレモロのイントロ。まるでスティール・パンのように、金属が甲高く響いているようなキャラクターです。がっつり右に振ったドラムス。コーラス仕事もきれいです。メインボーカルも基本ダブり。グループ・サウンズらしい、エレクトリック・ギターを中心にした編成にグロッケン・シュピールが光ります。オルガンの激しく揺れたトーンも時代の匂いを携えています。こっちの脳まで揺れそうだ。数人のボーカルの個性の違いもそれぞれに味があって楽しいです。Aメロが折り返すときにメインの歌い手が交代します。平静な歌い方がいいですね。テンポの局所的なわずかな揺れ、ときおり急いたようなドラムスのフィルインの緊張感は、なんでもかんでもクリック(電子のメトロノームのことです)頼みの近年の音楽にはなかなかみられない魅力です(ちょっと毒づいていますが心の底から本当に思っています。みんな機械に支配させない人間のテンポでもっとやった方がいい)。

曲について

曲はもともとザ・スパイダースとして発売したものです。1968年のシングル。作曲がかまやつひろし。作詞は菅原芙美恵ですが、当時、公募に応じた高校生だったという話です。驚きました。解像度高く内省を描いた詞だと思います。

Aメロ

なんとなくなんとなく』を思い出させるような、シンプルな音形のリフレインが基調です。音符を書き取ってみると休符あるいは2分音符が目立ちます。合いの手を含めたアレンジメントがしやすそうですね。Ⅱ–Ⅴ–Ⅰ–Ⅵパターンのコード進行。

“あの時君は若かった”“若かった”の「」の音が重要です。ここ、Ⅴの和音ですので、「わ」にあてがわれたⅵは非和声音(コードに含まれない音)。この一瞬の緊張感がこの美しいメロディの個性の要です。

譜例はinB♭(ムッシュのカバーと同じ調)です。

Bメロ

高めの音程にポジションを移したドラマティックなBメロ。なんといってもBメロ後半の借用和音が際立っています。ドッペルドミナント、すなわちⅤ調のⅤの和音です。呪文みたいなことを言ってすみません、すなわち、Ⅴの和音に進行することでその緊張感の解決を図れる和音なのです。メインの調を主体にしていうと、Ⅱmの和音の第3音を半音上げて長和音に変えた(ⅡMにした)ものです。しかも、この半音上げた音、つまり元の調の固有音ではない音を歌メロディにつかっています。ここで、「転調した」「雰囲気が変わった」ように感じますよね。さらに続く“いつまでも”の「も」でメロディの緊張感の旅はピーク。曲中の最たるハイトーンです。ムッシュの1989年のカバーはB♭調なのでファ、ザ・スパイダースのオリジナルならC調なのでソに達します。聴かせどころです。そしてAメロ相似フレーズに戻ってワンコーラスが済みます。

譜例はinB♭(ムッシュのカバーと同じ調)。最下段が最たるハイトーンのところですね。

感想

若さをみるには、客観しなければなりません。観察の対象を自分から離してみる必要があります。そのうえで、ある点と、それ以降でいくらか時間が経過したある点を比較したとき、古い時代の方には「若さ」といえる特徴があることを認めて初めて、「あの時君は若かった」といえるのです。これ、高校生が書いた詞だという話ですよね…。

でも、自分が高校生の時を振り返ればそれは自然だとすぐ納得いきます。いつも、その時代の自分なりの前後関係を持っています。幼い子どもだって同じ。彼らもふと、何かを観測してその対象を評価して「なつかしい」と言ったり「〇〇だった」などと感慨を述べたりします。昔の私だって同じです。

ウン十年後の私が、過去を振り返って「あの頃君は若かった」などと嘆く現在の私をみれば、「お前もな(あなたもじゅうぶん若いの意味)」です。若いって幅広い。限りない可能性を秘めている概念なのですね。

青沼詩郎

『あの時君は若かった』を収録した『ザ・スパイダース・ベスト・トラックス』

ムッシュかまやつ『あの時君は若かった』を収録した『ザ・スパイダース・カバーズ【+3】』

ご笑覧ください 拙演