こえがれ

声が嗄れるというのは逆境の象徴ですね。声は言葉の象徴でもあります。意思を伝える媒体。

声は身体の健康や、調子のバロメーターでもあります。歩いたり、食事をしたりといった日常活動であれば声が嗄れていてもできるでしょう。ですが、大勢の前でマイクを握って2時間、ひとりでしゃべり倒す講演会をするとかなると、声の調子が万全でないと不安なものです。

声嗄れを天敵とするのはほかでもないミュージシャンでしょう。ずばり、シンガーです。声が嗄れたら歌手は商売あがったり。開店しない、イベントを延期するというのもシンガーとしての英断のひとつかもしれません。どんなに万全でなかろうともステージに上がる、その状態でできる最善・最高のパフォーマンスを期日きっかりにする、というのももちろん、尊ぶべき態度でしょう。

半端なパフォーマンスをするくらいなら延期をする、というのも確かに完璧主義的な表現者として仰ぐべき態度かもしれませんが、ただそれをすると、ではどれくらい体調(あるいはほか諸条件)が万全でない場合は延期をやむなしとするのか、という線引きを問われることになります。もちろん、そのときそのときで具体状況のもとに、最善の判断を適確な熟考のもと下せばよいだけではあるのですが……延期や中止は、本当にのっぴきならない事情のみによるものだと私個人としては思います。

重度の病気……たとえば手術や入院をともなうような体調と戦って、公演の日程を泣く泣く飛ばすとかするベテランのミュージシャンの風聞などもしばしばききます。そのままご逝去されてしまうなんてケースもなかにはあるでしょう。比較対象が極端すぎるかもしれませんが、命の灯の明滅と比べれば、「声嗄れ」は軽傷(軽症)未満の些事なのかもしれません……それでも、本番前のシンガーにとっては声嗄れほどおそろしいものはない……と堂々巡りをする私の思案。いったいだれの心配をしているのやら……。

青いベンチ 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:北清水雄太、編曲:関淳二郎。サスケのシングル、アルバム『Smile』(2004)に収録。

青いベンチを聴く

ちゃきちゃきしたアコギのストローク。ボーカルのハーモニー。歌声は儚く繊細な印象です。サビで高い音程にむかって跳躍ですっと抜く動き。

イントロとエンディングにハーモニカ。ラストのサビで半音転調(D→E♭)するので、キーの違うテンホールズハーモニカを持ち替えなければなりません。二人組のシンガーなので、ふたりでイントロとエンディングそれぞれのハーモニカパートを折半すればライブでもそのままできそうです。あるいはひとつのハーモニカホルダーにふたつのテン・ホールズを装備する姑息な工夫をするのか……それはまぁ、サスケのお二人には不要な工夫でしょう。

大サビといいますか、Cメロというのか? ラストのサビ前でそれまでと違ったパートに突入し、ボーカルの張り具合も高まります。そのまま、大サビ以前と相似形のサビ前メロディにつながってラストサビに突入します(私自身も曲書きなのでこういう意匠に目がいく)。

詞をみる

“この声が枯れるくらいに 君に好きと言えばよかった 会いたくて仕方なかった どこにいても何をしてても”

(サスケ『青いベンチ』より、作詞:北清水雄太)

「枯れる」の表記だと「植物が枯れる」ほうを思いますが私もつい「声が枯れる」と書いてしまうことがあります。声がかれると書く場合は「嗄れる」のほうが身体の違和感を表現する場合は適確でしょう。あるいは、声が、「植物が枯れるみたいになる」ということの表現なのかもしれません。それも風流です。

「声が枯れる」くらいにものをいうのは、叫んだり怒鳴ったりしてしまうことでしょうか。そんなに我をおしつけても伝わらないよと冷や水を打つ不粋な私が顔を出します。あるいは、長い期間にわたって、休みなく何かを唱え続けることでも声は「枯れる」かもしれません。ちょっとは休めばいいのにと冷や水を打つ私が(以下同文)……。

ちょっと、こういう不粋なツッコミを誘うところも、ポップソングとしての愛嬌なのかもしれません。怪物級にヒットした曲こそ、そういうツッコミポイントがあったりします。ツッコンでる私が不粋なだけでしょうか。

不粋なツッコミに一度ふたをしましょう。後悔と懺悔の歌なのかもしれません。恋は、実るもののほうがマイノリティでしょう。成就しないのがデフォルトなのです。

失恋と成就の違いも実は、厳密にはわかりません。両想いのまま死別に至れば、それは失恋ではなくなるのでしょうか。たとえが極端すぎたかもしれません。私の悪癖か。

想いと想いの結びつきというのは、長いにせよ短いにせよ、刹那で儚いものなのかもしれません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>サスケ (埼玉県出身のデュオ)

参考歌詞サイト 歌ネット>青いベンチ

『青いベンチ』を収録したサスケのアルバム『Smile』(2004)