『Butterfly』作曲 末光篤
昨日、末光篤について検索したり、その作を鑑賞したりして記事を書いた。
木村カエラ『Butterfly』は前から知っていたが末光篤が作曲者だというのは初めて知った。末光篤は方々で活躍していて、そのことも知ったし、実は自分がふれてきたもののなかに末光篤がいたことも改めて認知した。彼は稀有なピアノ・エンターテイナーでプレイや作曲、アレンジメントにもそれは顕現している。
調(蝶)の旅
木村カエラ『Butterfly』は転調が多い。
イントロはFメージャー調。イントロのあとにサビが来て、E♭メージャー調。サビのあと、メロはBメージャー調。メロを経て2回目のサビは先程同様E♭メージャー調。2回目のメロは1回目同様Bメージャー調。3回目のサビはEメージャー調。サビに移る瞬間のドミナント・モーションを反復する際に半音ずり上げ、♭を外している。高揚感が強まる。
分数コードの教典
和音の基本形の根音とは違う音が低音位にくる和音配置のことを分数コードと呼ぶことがある。
『Butterfly』はまるで分数コードの万国博覧会の様相。基本形の和音が出てきたときには「あれ? どうしたの? 具合悪い? 分数コードじゃないじゃん!」とでも言いたくなるくらいに常に分数コード。……はさすがに言い過ぎかもしれない。
もしこれを読んでいるあなたが分数コードについて学び、体得したい場合は『Butterfly』1曲をまるまる弾き語りかソロのインストゥルメンタルなどでマスターすればいい。できればピアノかギターで。この曲には低音位のクリシェ、第1〜第3の各種転回形も出てくる。分数コードのバラエティのほとんどが詰まっている。
運命の花とチョウ
親しく大切な人を祝う光明と詩情に満ちた歌詞。作詞者は木村カエラ。末光篤との制作(共作)プロセスにおいて詞先か曲先かどっちだったのだろう。私は詞先だろうと考える。サビの調を半音高くしてエンディングに仕向けている点、コード進行が多様かつ複雑な点など、音楽面での工夫の豊かさからそう思う。
最後の一行の歌詞“運命の花を見つけた チョウは青い空を舞う” (『Butterfly』より、作詞:木村カエラ)。
運命の花とチョウはパートナーの比喩ととれる。
お互いを見つけるまでにさまざまあったろう。曲中の転調はそうした紆余曲折をあらわしてもいる。あるいは、運命の花はこれからふたり(チョウ)が築く場(家庭)のことともとれる。ふたりが出会い、一緒になることで運命の花が咲く。チョウは運命の花で命を養い、舞う。青い空を背景に。向上や希望を思わせる視線だ。
青沼詩郎
木村カエラ『Butterfly』を収録したアルバム『HOCUS POCUS』(2009)