ザ・ピーナッツのコーヒー・ルンバを聴く

ザ・ピーナッツのシングル(1962)。編曲:宮川泰。日本語詞:あらかはひろし。原曲は『Moliendo café(モリエンド・カフェ)』(1958)で、作詞・作曲:ホセ・マンソ・ペローニ(Jose Manzo Perroni)。

当たり前かもなのですが、主役としての扱いがほぼイーブンといっていい二人組の歌手だからこその定位感。左と右で、どっちも甲乙つかず主役、対面でバトルしている。真ん中に審判のアコースティック・ベースがドンといる。奥の方ではシェーカーとウッドブロックが一心不乱に時報を鳴らしているみたいな……

左側にメインのボーカルメロディ。ストリングス。

右側に上ハモのボーカル、エレキギター、ビブラフォン。

歌詞のあるところでは、はっきりと二人のボーカリストの線が、定位づけも手伝ってはっきりきこえます。こんなにも調和するのに、はっきりと分離もする輪郭のよさ。双子である点もあっての奇跡でしょうか。

間奏では右でエレキギター、左でストリングスが対面バトル。かけあい。応酬です。

疾走するエレキギター。怒涛のアップ・ピッキングの弱拍がスピードを煽る、煽る。ベースも弱拍をぐんと持ち上げるようなパターンです。ドラムスがいないのが意外ですが、ベース、ギター、パーカッション小物でじゅうぶんベーシックをつくれるのですね。知っているつもりですが改めてベーシックづくりの奥深さを思い知らされます。

ストリングスのサウンドは劇的できびきびとしてかつ瑞瑞しい。ボーカルにかかったエコー(こだま)効果が、ストリングスやギター、パーカッションとベースが緻密にタイトに実現するリズムの輪郭のよさとの接着を図ります。めちゃ気持ち良いサウンドです。

コーヒー・ルンバ モア・アバウト

世界的なヒットソングや童謡・民謡・有名曲に明るいこちらのサイトを参照します。

世界の民謡・童謡>コーヒールンバ 原曲の歌詞と和訳 モリエンド・カフェ Moliendo Café/アルパの演奏で世界的に有名に

原曲の歌詞から私が感じるのは、コーヒー農園に従事する人のブルースです。肉体も心もつらかろう。コーヒーの生産は、フェア・トレードが叫ばれる様相が物語るように、楽なものでなく、かなり歪なバランスのもとに循環している分野なのは学も知識もない私にまで届きうる事実の端っこでしょう。主人公がコーヒー農園の従事者だと歌詞の中で言い切っているわけではないので私の想像を含みますが、陽光のない、変な時間に及んでもコーヒーを挽いて飲まんとする……それをすることで回していくことが迫られる日常の切実さを、そのひりひり感と無情な厳しさを私に想像させるのです。

作曲者のホセの甥っ子さんだというウーゴ・ブランコのアルパのエキゾチックな音色が記憶にある人も多そうです。金属的なテクスチャを思わせるほどに独特なピーク感ある響きと輪郭に揺れのあるやわらかいトーンは類稀なサウンドを発揮しています。

ピッチにあそびが大きい。「正しいピッチ」なんて幻想を捨てることが音楽の多様性を堪能する鍵に思えます。漂うような宙に浮いたようなピッチ感がたまりません。かなり技巧的でアツい演奏になっていきます。かっこいい。
私の趣味としておさえておきたい井上陽水さん。分割が緻密で、どろっどろに濃ゆいグルーヴ感が詰まっています。粉を湯水のように使って抽出したとびっきり稀少な一杯のコーヒーを思わせます。

原曲の訳詞に私が(勝手に)感じた労働の悲哀とはうってかわって、中沢清二さんの訳詞は軽い着地をみせる文面になっています。そんな軽めな足取りを感じる訳詞も、井上陽水さんの歌唱、演奏陣にかかるとこうも粘着性と艶めきを帯びるから見事なものです。えろっえろのどろっどろです(言い過ぎ)。

ピーナッツ版の歌詞(あらかはひろしさんによるもの)は、恋と、コーヒールンバのリズムや踊りとしての側面を重ね合わせたものになっています。軽快なスピード感ある演奏はこの舞踊性、躍動感のあらわれだと思えます。歌詞のもつモチーフを音楽面でも表現した妙です。

恋とは燃えるように熱いものかもしれません。でも、炎って質量は……重さはあるの? 炎自体の重さってそれ、幻想みたいなものかもしれません。

コーヒーのにおい。温度。ヒトの感情(酸いも甘いも)……もろもろが機能し合って「コーヒー・ルンバ」の主題のフレームのもとに嵌る。世界が時代を超えて楽しむ名曲になるわけです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>コーヒールンバ

参考歌詞サイト 歌ネット>コーヒー・ルンバ(ザ・ピーナッツ)

ザ・ピーナッツの『コーヒー・ルンバ』を収録した『THE PEANUTS “THE BEST 50-50″』(2010)

井上陽水の『コーヒー・ルンバ』を収録した『UNITED COVER』(2001)