B. E. KingとThe Drifters

私が高校生のとき、B. E. King『Stand By Me』を軽音楽同好会の活動部屋でセッションするともなくセッションした記憶があります。コードが4つしか出てこなくて、セッションがしやすいです。間奏を引き伸ばしてソロをまわしたりもしやすいだろうなと思います。ボーカルの音域は原曲キーだと私には高いですし、英語ですので私個人がたとえば弾き語りするためのレパートリーとしては決してハードルが低い感じでもないのですが、一部のミュージシャンの間ではセッションの定番曲として定着している向きもある素晴らしい楽曲だと思います。

近年になって、私はふと映画『Shall We ダンス?』を観ました。テーマ曲がThe Driftersの『Save the Last Dance for Me』、“ラストダンスは私に”。この楽曲が収録された同名のアルバムをサブスクで開いてみる。2曲目に収録された『I Count the Tears』の名義がドリフターズとB. E. キングの連名になっています。

B. E. キングはドリフターズのメンバーでもあるのですね。出入りの多いグループで、Wikipediaを見るに、メンバーとしていたことのある人数が並びます。そのなかにB. E. キングも見つかります。メンバーとしてなのか特別なコラボとしてなのか、連名とあくまでThe Driftersと表記するのと使い分けがあまりわかりませんが、とにかくB. E. キングとThe Driftersはかれらの活躍を考察するとき紐づいているのです。

グラス・ルーツの今日を生きよう

『I Count the Tears』は楽曲『Save the Last Dance for Me』と同じ作詞・作曲コンビでDoc Pomus、Mort Shumanが書いたものです。

『I Count the Tears』の特徴はなんといっても歌い出しの“Na Na Na Na Na Na late at night”というフレーズ。気になるのが、別のアーティストの別の楽曲にこのモチーフが登場することです。

The Grass Roots『Let’s Live For Today』“今日を生きよう”です。ザ・テンプターズにカバーされており、『I Count the Tears』から見ると孫の様相ですが、モチーフを引用しているのでグラス・ルーツは『I Count the Tears』の「カバー」とはいい難い。不思議な遺伝子の伝播です。片鱗のみが飛び火するということもあるのですね。

The Drifters I Count the Tearsを聴く

作詞・作曲:Doc Pomus、Mort Shuman。The Driftersのアルバム『Save the Last Dance for Me』(1962)に収録。

“Na Na Na Na Na Na”のコーラスからはじまって、ヴァース、コーラス、ヴァース、コーラス。のち、ブリッジ、ヴァース、コーラス、エンディング。

8小節でひとつのブロックが軽快に進行します。2分ちょっとのサイズなのですが、ひとつひとつのカタマリ(8小節)を頻繁に反芻してシンプルなのにリッチな音楽を印象づけていて好きです。

メインボーカル男前。コーラスグループといっていいでしょう、声の厚み、たとえばくだんのナーナーナナナナ……のフレーズのカウンターラインなんて、3オクターブにまたがってユニゾンしているように聴こえるのは私だけでしょうか。男声のコーラスグループと認知していましたが、女声も入っているように聴こえます。

ストリングス、ヴァイオリンパートでしょうか、分散の音形で和音を出し、ほとばしる弓使いを感じさせます。ナーナーナナナナ……のモチーフをストリングスもカウンターしていますね。

図:The Drifters『I Count the Tears』ボーカル同士やストリングスのかけあうモチーフの採譜例。

木琴やベル(それハンドベルや鈴でなくて、ハンマーでたたくデカいベルです)が華やか。器楽も声楽も動員して2分にどれだけの情報を詰めるのか。うなります。

リッチな音遣いに複雑な和声はいらないとばかりに(もちろん語弊がありますが)コード進行は1645の定番にして鉄板。コーラスでⅥm→Ⅲmのパターンになって、ビターな雰囲気が出ています。涙を数えるのですもの。

ベースのパターンもアタマと2拍目ウラを出していく超定番なパターンです。

おとこなかせ

失恋を描いた曲でしょう。主人公に涙をかぞえさせるのです、別れたパートナーが主人公でしょう。「I’ll sit and count the tears」のフレーズが最後のコーラスで「He’ll sit and count his tears」に変わります。パートナーはこれからも主人公のように涙を数える寂しい輩を量産しつづけるのでしょう……と予言するかのようです。涙をかぞえている人が、主人公から、どこぞのしらないカレ(he)にすり替わっていく。クロスフェードする映像的なおもしろさがあります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ドリフターズ (アメリカ)

参考歌詞サイト KKBOX>I Count the Tears

歌詞の参考サイト 名久井翔太の音楽文章ラジオ>The Drifters – I count the tears 

『I Count the Tears』を収録したThe Driftersのアルバム『Save the Last Dance for Me』(1962)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『I Count the Tears(The Driftersの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)