泣いちゃう歌声

ドクター・ジョンの存在はこの音楽ブログを運営する活動をしていて知りました(以前にも記事にしたことがあります。)。

『Iko Iko』というふしぎな呪文のようなタイトルの曲をほかのアーティストがカバーしているのをみて、たどっているうちに知ったのです。そのドクター・ジョンもカバーでした。

ふしぎな呪文みたいな曲は、マルディグラ・インディアンの謝肉祭を背景にした「威張り合い」みたいなものを描いているのだとか。

James “Sugar Boy” Crawford『Jock-A-Mo』を聴く

野生的なビートです。カンカンとけたたましくスネアのリムをオルタネイトでストローク。途中でキックをバスバスと踏みながらノリが変わります。スウィングしたグルーヴで……これがニューオーリンズのノリでしょうか。

ジェイムズ・”シュガー・ボーイ”・クロフォードのハスキーな歌声がチャーミング。

モノラルの音像でベースとピアノの低域のセパレーションがあまりわかりません。和声音をアタマと2拍目ウラをおさえながら移勢して飛んでいくグルーヴで取っていきます。べらんべらんとワイルドにピアノのベースが鳴っている感じです。

ギターのストロークが細かくジャングリーです。金管楽器はトロンボーンでしょうか? 2〜4拍目あたりにむかって裏拍をコキコキととっていく感じが聴き覚えのある音楽スタイル。南米みたいなノリも感じます。カオスで雑食です。

メインボーカルのジェイムズのちょっと後ろから、男声のBGVも出てきます。モノラルなので渾然一体としています。ストリートか酒場かで一円になってごきげん奏でているフィール。粋です。ジェイムズのハスキーな歌声が人懐こさ。

Dr. John『Iko Iko』を聴く

James Crawfordによる作詞・作曲のJames “Sugar Boy” Crawfordのシングル『Jock-A-Mo』(1953)を原曲としたDr. Johnの『Iko Iko』。アルバム『Dr. John’s Gumbo』(1972)に収録。1965年発表のthe Dixie CupsのシングルやDr. Johnの『Iko Iko』の著作者名義(作詞作曲)はJames Crawford、Barbara Ann Hawkins、Rosa Lee Hawkins、Joan Marie Johnsonとされている。

はじめてドクター・ジョンのアイコ・アイコを聴いたときはじゅうぶんドロドロで土臭いと思ったものですが、ジェイムズ・クロフォードの録音を聴いたあとに聴くとこれでも録音作品としてむちゃくちゃ端正だという印象を受けるから驚きです。

左右にチコチコとピークの気持ちよいエレキギターのカッティング。

真ん中のピアノはずっと手持ち花火がバチバチいっているみたいに熾烈に転げまわります。どこまでいっちゃうんだ。ピシャンピシャンとファンキーでグルーヴィです。

ベースとドラムスが端正です。基本パターンを忠実に繰り返し、飛んでいきそうなピアノをフレーミングします。スネアを細かく打ちながらニュアンスや装飾をつけて匂いを出す。アクセントの演じ分けが絶妙です。

左右から思いっきり定位をひらいたBGV。左から女声、右から男声がまとまって聴こえます。エンディングに向かって、ジャカモー、とかアイコアイコアンデイ……とか、楽曲の骨子のワードを用いて団円させます。ピアノが真ん中で残って崩壊しながら(別の曲みたくなりながら)刹那に終わります。やっぱり録音作品としてすごい。

ライブでみてもドロドロにいい感じのニオイたちこめるパフォーマンスをきっと重ねてくれていたであろうドクター・ジョン、生きていらっしゃればです。この歌声を聴くと泣いちゃうのです。美しいというよりは、生きたまんまのしゃがれが美しい。きれいなもの、美しいものの定義を考えさせます。

図:Dr. John『Iko Iko』のセカンド・ライン(歌と歌のあいだに入るライン)の採譜例。非常にタイトできびきびした演奏です。複数の金管の合音。下がトロンボーンで上がトランペットでしょうか。オクターブでユニゾンしている感じです。泥臭い歌いとジャングリーなリズムが中核ですが、バンドの所帯はそこそこ大きめで理知的な統率もとれている振れ幅が秀逸。聴き飽きない理由のひとつかもしれません。

青沼詩郎

James “Sugar Boy” Crawford『JOCK-A-MO』を収録した『ジョック・ア・モー: ベスト・オブ・アーリー・イヤーズ』(2023)

『Iko Iko』を収録した『Dr. John’s Gumbo』(1972)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Iko Iko(James “Sugar Boy” Crawford『Jock-A-Mo』を原曲とする数多カバーされたニューオーリンズ・ソング)ピアノ弾き語り』)