なな しち どっち

カタカナの「キ」が苦手です。どうしてか私には「キ」の縦棒を、左下に向かって刺さる向きに書いてしまうクセがあります。私は歌詞をノートに書くことがあるので、最近意識して気をつけています。

図:カタカナの「キ」の正誤。右下に向かって縦棒を引くのが正しいです。ひらがなの「き」の縦線を引くときと同じ向きなので、普通は勘違いしようがない気がしますが私はどうしてか……。

カタカナの「キ」はさておき、ふと自分の数のかぞえかた(数字の読みかた)が気になることがあります。1(イチ)、2(ニ)、3(サン)、4(シ)……。4は「シ」ですが「ヨン」もあります。

日本で最も売れたシングルといわれる『およげ!たいやきくん』ですが、B面曲(両A面か)が、なぎら健壱(なぎらけんいち)さんが歌った『いっぽんでもニンジン』で、数え歌になっています。

7匹の蜂(ハチ)を数えるところで、“しちひき”と歌っています。私ならつい「ナナヒキ」と読んでしまう「7匹」という語句。

実際のところ、どっちの読みも、絶対的に正誤があるということではないようです。

検索してみていくつか拝見したサイトで、良かったものをリンク(ITmediaビジネスONLINE>
七匹は「ななひき」でいいの? 意外に知らないけっこう間違いやすい漢字
)しておきます。マンガ形式の記事で、言葉の多様性や変容性を肯定的に寛大に受け止める着地が好感でした。

「ナナ」と「シチ」はカウントアップかカウントダウンで使い分けられているというのも、検索で気づきました。普段は気にしていませんでしたが指摘されてみると興味深い事実です。

イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、シチ……

ジュウ、キュウ、ハチ、ナナ……

日本語って宇宙。

曲の名義、概要など

作詞:前田利博、作曲・編曲:佐瀬寿一。なぎらけんいち(なぎら健壱)のシングル『いっぽんでもニンジン』(1975)。子門真人の『およげ!たいやきくん』との両A面。『ひらけ!ポンキッキ』で使われた歌。

いっぽんでもニンジンを聴く

かぞえ歌を2コーラス繰り返す構成。なぎらさんと、オーディエンスの間をとりもつ「リーダー」みたいな、ちょっとハスキーな若い声が聴こえます。少年なのか少女なのか。数字を“しち!”“はち!”と、なぎらさんの歌唱に先んじてかけ声し、リードしていきます。“なくてもわかるだろ”とも思うのですが、ミックスから消し去ったらきっと間が抜けてしまう重要な拍子木なのでしょう。へこたれない感じの声質が良いですね。これ、ひょっとしてなぎらさん本人の声をテープ早回しで再生してピッチを上げたのかな?

なぎらさんの歌唱もおどけたような“ふし”やニュアンスを加えた茶目っ気を感じます。声のキャラが“お茶目”とは程遠い気もします。

間奏にエレキギターが入るのですが、よっぱらったみたいな独特の間合いとのろけを感じる絶妙な演奏です。

スウィングしたビッグバンドのようなグルーヴもあり管楽器がリッチです。サックスが目立ちますね。むかし、サックスが吹ける友達が“八木節”を吹いてみせてくれた個人的な思い出が蘇ります。

至難の替え歌ワーク

“1 いっぽんでも ニンジン

2 にそくでもサンダル

3 さんそうでも ヨット

4 よつぶでも ゴマシオ

5 ごだいでも ロケット

6 ろくわでも シチメンチョウ

7 しちひきでも ハチ

8 はっとうでも クジラ

9 きゅうはいでも ジュース

10 じゅっこでも イチゴ

イチゴ ニンジン サンダル

ヨット ゴマシオ ロケット

シチメンチョウ ハシ

クジラ ジュース

“いっぽん にそく さんそう

よつぶ ごだい ろくわ

しちひき はっとう

きゅうはい じゅっこ”

(『いっぽんでもニンジン』より、作詞:前田利博)

「本」「足」「艘」など、単位が直後に来るモノを一瞬先に予言します。1ずつ数え上げていくAメロは共通。

1コーラス目はモノを唱え上げるBメロ(?)、2コーラス目では数字+単位を唱えます。ほぼ同じことを2回繰り返しているだけなのに、自然に2コーラスを通して聴けるのはこうした小違いと、おどけた歌唱の機微が効いているのかもしれません。

替え歌を考えたくなりますよね。私ならなんにするか。いっぽんでもニードル、にほんでもサンザシ……あ、“にそく”じゃないと駄目? 単位が別のものに変わっても数字が増えていけばOKでしょうか。

ふと気になりましたが、“単位”という言葉の使い方を私は間違っている? 検索しましたら、こういうのを助数詞(じょすうし)というそうです。初めて知りました。『いっぽんでもニンジン』は助数詞の歌なのですね。

さて、どんな替え歌にするか。

……

一本でもニードル

二曲でも讃美歌

三杯でもヨーグルト

四台でもゴミ箱

五体でもろくろくび

六歳でも七五三

七つでも八つ橋

八羽でも九官鳥

九手でも柔術

十日でも市場

……

うーん。これ、激ムズです。数詞の読みの音韻やイントネーションに合うように、その助数詞によって数えるのに相応しい名詞を考えるのが案外難しい。

音韻に関して細かいツッコミを入れますと、ご本家も“クジラ”の後は“く”でなく“きゅうはい”と読んでいます。まあ、「く」で読み始める数詞はないとすれば仕方ないかもしれません。(九人(くにん)とかならあり?)

ご本家の歌いまわしや抑揚(音程、メロディ)に完璧に合わせて名詞や助数詞を探すとなるとなおさら、針の穴に糸を通すような無理ゲーレベルの作詞ワークです。

自分のアイデアのアラを探すなかれ。おのれの中に湧き上がる細かいツッコミはこの際無視して、楽しんでやるのが一番でしょう。みなさんもやってみては?……

一個でもニキビ

二尺でも桟橋

三ページでも紙面

四体でもゴジラ

五本でも肋骨

六匹でもナナフシ

七軒でも八百屋

八の段でも九九

九章でも十戒

十杯でもいいちこ

……ついやってしまいます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>およげ!たいやきくん

参考歌詞サイト 歌ネット>いっぽんでもニンジン

子門真人の『およげ!たいやきくん』と両A面の、なぎらけんいち(なぎら健壱)のシングル『いっぽんでもニンジン』(1975)

いっぽんでもにんじん

Ippon Demo Ninjin

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『いっぽんでもニンジン(なぎらけんいちの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)