It’s Not the Spotlight Barry Goldberg
作曲者、バリー・ゴールドバーグ自身の名前を冠したアルバムに収められた楽曲。作詞者はジェリー・ゴフィン(キャロル・キングと組んで数多の楽曲を作った人)。
私が本曲を知るきっかけといいますか先に出会ったのは、浅川マキさんが日本語で歌った『それはスポットライトではない』(1976)。カバーなのですが同じ曲に聴こえないくらいに独自の解釈を加えている……というか自分のものにしているのです。矢野顕子さんが他のアーティストのカバーをするときも矢野顕子さんのオリジナルにしか聴こえなくなりますよね、そんな独創性の強さが浅川マキさんにもうかがえると言い添えておきます。
直訳すると「それはスポットライトではない」。カメラのライトでもないし、ついては消えゆく路上の夢みたいな街灯りでも、月の光でも陽光でもない、君の瞳の光なんだ!……分かるよね? みたいな私の足りない頭で考えた逸脱した意訳で申し訳ないですが、否定形を連ね、最後に君の瞳に光る輝きを見たとするサビの歌詞がリスナーを最後まで離さない誘引力を放ちます。心の内側のあるべき理想にアプローチしているため、誰がいつどこで何をしたかとか、具体的な小物(名詞)をはっきりと描くような歌詞ではなく、観念的・抽象的な表現を尊重し心を描きます。メロディも主音(バリーゴールドバーグの実演はGなので、ソ)の近くを中心に、極端に広いわけでもない音域にとどめ、リスナーとしても落ち着いて聴いていられる、一種の遠さ・穏やかさがあります。ロッド・スチュワートによるカバーがあり、この曲といえば彼で認知している人も多いのかもしれません(ゴールドバーグとはかなり印象が異なる、ロッド・スチュワートらしハイトーンなボーカル)。
It’s Not the Spotlight Barry Goldberg 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Barry Goldberg & Gerry Goffin。Barry Goldbergのアルバム『Barry Goldberg』(1974)に収録。
Barry Goldberg It’s Not the Spotlight(アルバム『Barry Goldberg』)を聴く
落ち着きのあるバリーの歌声がおだやかで快い。慈愛に包まれる気分になります。オケ(バンド)の音像も常に満たされていて、安定した音像が続きます。この楽曲の歌詞を、恋の歌であるように解釈する筋もあるそうなのですが(それが主流? 私はもっと抽象的な理想や志の歌だと感じたのですが)、一時的な好いた惚れたにおさまるのでなく、一本道の人生が末長くそびえているような恒久性を覚えます。
キックのストロークが16分割で細かく入っていて、R&Bやソウルのクラシック・オールディーズみたいなホットでクールなノリがこめられています。ベースもぼぼぼとその解像度についていったり、あるいはヴァースの入りはおだやかだったり。右寄りにちゃきちゃきとしたアコギストラミング。左にはトレモロで音量が波打つようなエレキのオブリ。オルガンの響きが天使の梯子をさしいれる陽光の輝きです。ストリングスがいいところで迎えにきてくれます。
間奏でプロコル・ハルムの青い影みたいな展開になったかとおもえば2小節単位のパターンを2回繰り返してすぐヴァースに復帰。そこからピアノのダウンビートがこんこんと降り注ぎ、心の扉をノックするみたいに響きます。
ドラムの定位感がちょっと独特で、描き込みのこまかいキックは中央付近から聴こえる感じがするのですが、スネアやライド、タムなどは左寄りの定位から聴こえます。低い帯域が中心になるキックだけを中央にするのも理屈ではわかりますが実例としては珍しい気がします。ビートルズやグループ・サウンズにみる完全なグッバイ定位でもないが、はっきりと片側トラックへの偏りも表明されています。定位はいずれにせよ、解像度と穏やかな熱量と確かな技量の刻まれたリズムトラックと調和した良い音源。本楽曲のご本家です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Barry Goldberg、アトランティック・クロッシング
参考歌詞サイト AWA>It’s Not the Spotlight
Barry Goldberg Official Websiteへのリンク
『It’s Not the Spotlight』を収録したBarry Goldbergのアルバム『Barry Goldberg』(1974)
Rod Stewartによる『It’s Not the Spotlight』を収録した『Atlantic Crossing』(1975)
『それはスポットライトではない』を収録した浅川マキの『シングル・コレクション』(2020)