あの人といるあの人が私であったなら

ヘレン・シャピロはマーク・ボラン(のちにT.レックスを結成)とグループを組んでいたことがあったそうです。小学校時代の同級どうしだったんだとか。私はT.レックスファンでもあるので、なんとなくオールディーズ趣味の延長でヘレン・シャピロを聴いていたらロック文脈と交わる思わぬエピソードに出会って意外でした。

ヘレンの実演はCメージャーキー。1625の耳馴染みの良い定型のコード進行を下地に、なめらかで歌いやすいメロディ。ヴァースのメロディが弱起。頭の拍をはずしてメロディが起こるので、印象がいちいち儚い。『悲しき片想い』が本曲の邦題ですが、その想い叶わぬ悲哀・儚さが音楽の特徴によっても表現されています。

BセクションがⅣmではじまったかと思えばそれは実は同主短調の平行調であるE♭メージャーへのドミナントモーション、Ⅱm→Ⅴ→Ⅰ(Fm→B♭→E♭)なのです。この展開もオシャレで夢をみているみたいに……まるで片想いしているだけの状態。勝算のわからない恋の成就への願い、あの人と一緒にいるあの人が私ならいいのに……という羨望の表現のよう。その物思いへの耽りも、8小節程度で覚めてAセクション(現実?)に回帰してしまいます。

本曲は弘田三枝子さんが日本語で歌った実演があり、日本での一定の認知に貢献しているようです。弘田さんの実演(カバー)は原曲の特徴やフィールをよく映し取ったアプローチ。鑑賞を通して、主人公の想いの対象がまだ知らないでいる秘められた想いに触れてください。

You Don’t Know Helen Shapiro 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:John Schroeder & Mike Hawker。Helen Shapiroのシングル(1961)に収録。

Helen Shapiro You Don’t Know(『Best of Helen Shapiro(Best of the EMI Years)』収録)を聴く

中性的な歌声が紳士的。フランク・シナトラなどを思い出す、堂々たる落ち着き。音程の止め方(決め方?)が的確できっぱりしています。この歌唱に、揺るがない意思が宿ります。本曲の主題は悲しき片想いですが、この恋がどんな結末を迎えても、私は私の意思によって希望に満ちた未来を迎える権利がある!そんな誇らしさが頼もしく思える歌唱です。

ズボン!と深く沈み込むアコースティックベースの音色に、パサパサっとロッドかブラシで叩いたような軽いスネアのサウンド、それに同調するタンバリンのアクセントが光を添えます。フラ!フラ!となぎ払うようなリズムのストリングスの音色。輪郭と質量が確かです。アルコで息の長いフレーズで常に線を描き込みます。主人公にもあの人(You)にも、ずっと流れている時間を与えます。一緒にいるのが自分とあなたでなくとも、歩みは常に続くものです。

バックグラウンドのボーカル群がすこし遠くてはかなげ。この距離感であなたを見つめるものといえば……このバックグラウンドボーカルこそが現実の主人公の立ち位置であり、リードボーカルのきっぱりとした人格はそんな現実の「あなたと遠い位置にいる自分」を勇気づけ正気を保つ理性の権化なのかもしれません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ヘレン・シャピロ

参考歌詞サイト JOYSOUND>You Don’t Know

Helen Shapiro / ヘレン・シャピロ | Warner Music Japanへのリンク

『You Don’t Know』を収録した『Best of Helen Shapiro(Best of the EMI Years)』(1991)

『12 Hits And A Miss / 悲しきかた想い~ベスト・オブ・ヘレン・シャピロ』(2015)


ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『You Don’t Know(Helen Shapiroの曲)あの人といるあの人が私であったなら【ギター弾き語り・寸評つき】』)