作詞・作曲・編曲:財津和夫。財津和夫のアルバム『I need you and YOU』(1980)に収録。

財津さんのひとり多重録音による演奏を編んだ作品でしょうか。間奏の、管楽器をイメージした感じのシンセトーン?がポールマッカートトーの作品で聴いたことのあるような音色っぽすぎて(ポールマッカートニーっぽすぎて)ついニヤリとしてしまいました。

歌のある部分の尺を倍にしたくらいの長さで、ゆっくりとエンディングが楽器パートで語られます。チョップされてリバースされたエレキギターが定位をうろうろ。6連符に分割されたエレキギターのストロークも定位をうろうろ。恋と愛の間をさまようみたいです。左(L)と右(R)ならどちらが恋で愛なのでしょうかね。

エレクトリックピアノの揺らめくトーンを貴重に、シンプルなアンサンブルを組みつつ、ゆっくりと音楽的にいろんな「日常茶飯事」を起こしていくみたいです。あるいは、記憶や思い出のコラージュみたいにも感じます。まずメインボーカルが全編に渡って、意図を感じる加工をほどこしたサウンドになっています。この演出が、歌詞を、「生身の人間が言い聞かせている」のでなく、何か人智を超越した存在が思念で語りかけているみたいな印象を与えています。歌詞の内容を説教くさくさせない音楽的な(サウンド面の)技巧に思えます。

何よりこの歌詞ですね。ほんとうにこのテの(なんて言い方は我ながら嫌気がさしますが)、恋や愛を表現した、言い切った比喩のうまいことときたら、財津和夫さんの最大の長所のひとつと言って良いのではないでしょうか。“わがままは 男の罪 それを許さないのは 女の罪”(作詞:財津和夫)という『虹とスニーカーの頃』の独特のラインが私の中で恒久に光を放ちます。

作詞・作曲:財津和夫。TULIPのシングル(1979)。

『恋と愛の間』の歌詞は、ひたすら恋を何かにたとえて、愛を何かにたとえてを重ね・連ねていく文構えで完結していきます。この歌詞からはおおむね、恋の方が刹那的で、瞬間的なエネルギー消費やエネルギー生産が多く、色彩、情報量、刺激が強い・刺激が多いもののような傾向が認められるように思います。対する愛のほうは、息が長く、スケールが大きく、裏を返せば冗長でもあり、スケールが大きいために時にその存在に気づきにくく、そのスケールの大きさに合わせてぐーっと引いて観察したときにようやくその存在に気づけるような、失ってみると生命に危機を感じるほどに致命的な存在であるのに、あまりに普遍的で、刹那的には軽視されがちなものに喩えられているような印象を受けます(かなり私の妄想や偏見が入っていますが)。

“恋はいつも45回転 愛はいつも33回転”(『恋と愛の間』より、作詞:財津和夫)

いわずもがな、恋はたくさん容量を食うことを代償に高音質を収録し再生する、そういうパフォーマンスを発揮する観念なのかもしれません。対する愛はどこかのんびりしており、情報の密度よりもその長さを採るスタンスです。孫に物語を語り継ぐみたいな気長さを想像します。

“恋はいつも蜜の味 愛はいつも いつも水の味”(『恋と愛の間』より、作詞:財津和夫)

財津さんの音楽的な趣味・志向を思うにビートルズが歌った『A Taste of Honey』を思い出すのは必然でしょう。

“密”と“水”で押韻もばっちりです。ニヤリとさせますね。「(水だなんて)味、ないじゃん!」いやいや、実は超重要で、料理の味も飲み物の味もみんなみんなこれに左右されますし生命に必要不可欠な存在であることは誰にも明白な事実でしょう。愛は水の味。恋は蜜の味。もちろんカロリーもないと生きていかれません。水はカロリーがありませんから。愛と恋の両方とバランスよく付き合うのが、生きながらえる必須のスキルなのかもしれません。

“恋はいつも鏡の中 愛はいつも いつもあなたの中”(『恋と愛の間』より、作詞:財津和夫)

自分のエゴを映し見るものが恋なのかもしれません。愛は、相手ありきの概念にも思えますが、実はそのよりどころは何よりも自分であることを思います。鏡にうつそうとしても見えない。視覚でとらえるものでないのかもしれません。自分の内臓の感性とか? 心臓がどくどくいう感覚も愛? それもそうかもしれませんし、そういう話ではないのかもしれません。でも、いつも自分のなかであれば、それが自分のなかのどこに対応しているのかはともかく、必ずどこかにはいてくれているはずです。そういう頼もしさをわずかに暗喩し、長いエンディングの楽器パートに突入し、リスナーをひとりぼっちにさせて世界に入らせ・浸らせてくれる。恋と愛の間を往来させます。ふたつはターミナルみたいなものかもしれません。あるいは、一筆書きで描く「円」の図形のように、一致する観念なのかも?

青沼詩郎

参考Wikipedia>I need you and YOU

参考歌詞サイト プチリリ>恋と愛の間

財津和夫オフィシャルサイトへのリンク

『恋と愛の間』を収録した財津和夫のアルバム『I need you and YOU』(1980)

ボーナス・トラックとして『恋と愛の間 (bonus tracks (live recording))』を収録した財津和夫のセルフカバーアルバム『サボテンの花〜grown up〜』(2004)

ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『恋と愛の間(財津和夫の曲)ピアノ弾き語り』)