暗い砂浜 ヴィレッジ・シンガーズ 曲の名義、発表の概要

作詞:寺本圭一、作曲:小松久。ヴィレッジ・シンガーズのシングル(1966)、アルバム『The Village Singers First Album(グループサウンズの貴公子)』(1968)に収録。

ヴィレッジ・シンガーズ 暗い砂浜(『GOLDEN☆BEST / ヴィレッジ・シンガーズ 亜麻色の髪の乙女』CD収録)を聴く

この曲を近田春夫さんの著書『グループ・サウンズ』で知りました。その近田春夫さんの著書においても、CD『GOLDEN☆BEST / ヴィレッジ・シンガーズ 亜麻色の髪の乙女』のブックレットにおける神田なおさんのライナーノーツにおいても、売れなかったと評されています。しかし一部の音楽好きにはこの曲の良さが伝わっていたのかもしれません。

声のまっすぐな質量感とハーモニーがすごく良いですね。バンドと歌全体で耳ざわりのよいアンサンブルができています。12弦ギターのサウンドは、琵琶やシタールを思わせる質感もありながら、至ってマイルドな響きでこちらも耳ざわり好し。

ベースがよく動きます。ドラムスは16分音符でタムを順番に叩いていくようなフィルインでやはりよく動くのですが至って軽やかな録れ音になっており、手数の多い語彙なのですがバンドのアンサンブルを邪魔することなく雄弁です。途中でハイハットがチキチキ……とシックスティーンになるところなど耳を引きます。しかし、やはりかろみのあるサウンドでバンドになじんでいます。キックの質量感はほとんどない(笑)といえるほどに軽く、低域の音の占有の分布はほとんどベースにあります。また、そのせいかメインボーカル(男声)の質量感ものびやかに感じられるのです。現代的な(執筆時:2024年)ギターバンドの音の分布とはまったくちがって、非常に心が落ち着く聴き心地です。

売れなかったと口を揃えるように評されるこの楽曲。やはり主題の「暗い」という語彙がネガティブな、パッとしない印象を与え、そちら方面にリスナーの覚える存在感をひっぱってしまうのかもしれません。

「暗い」はすなわち夜のことだと思うのです。もし「夜の浜辺」くらいのタイトルだったら、いくぶんかろみのある印象のネーミングです。しかし、「消えた恋」の悲しみとわびさびを描くために「暗い」という語彙が必要だったのかもわかりません。しかし、それも「夜」という観念に統合し、「夜」の語彙に委ねてしまってもよかったのじゃないかな、などと生意気ながら思います……が、結果として私は非常にこの楽曲が好きですし、近田春夫さんはじめ、諸般のリスナーの中にも『暗い浜辺』を高く評価する人は確かにいると思えます。

もうひとつしいていえば、コーラス(サビ、あるいはBメロ)でメインボーカルの音域が高まるのでなく、むしろ沈みこむ「地味さ」に売れなかった要因があるのかもしれません。しかしそれも、主題の『暗い浜辺』を表現するのにおあつらえ向きの意匠だと評価できます。

これがせめてデビューシングルじゃなくて、アルバム中でハナのある曲と曲のあいだを橋渡しする存在、あるいはシングルB面などで、このバンドの演奏力や音楽センス・趣味のよさを裏付ける位置付けの楽曲だったらだいぶ違ったのかもしれません。

いずれにしても、バンド:ヴィレッジ・シンガーズには『バラ色の雲』『亜麻色の髪の乙女』などによるヒットがあり、初期の『暗い浜辺』の宵闇を味わったグループには、それ以後において明け方〜日の目が訪れることになります。なるほど、この未来の予言、第ゼロ話が『暗い浜辺』だったと思えば腑に落ちます。

青沼詩郎

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参考Wikipedia>ヴィレッジ・シンガーズ

『暗い浜辺』を収録した『GOLDEN☆BEST ヴィレッジ・シンガーズ 亜麻色の髪の乙女』(2003)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『暗い砂浜(ヴィレッジ・シンガーズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)