9月20日(日)19:30に“配心”した京都音楽博覧会2020。見逃し配信期間が終わる前にもういちど通して聴いて、逐一メモにしていく。

Main Theme

岸田繁楽団オリジナル。軽快なウラ打ちのギター。バイオリンの跳躍のメロディが気持ちいい。「チャンチャチャチャッチャ、チャッチャ!」で終止かとおもいきや転調。野崎氏のアコースティック・ピアノが裏打ち。さまざまなモチーフが相容れる。フェルマータしてまた曲調がかわる。クラリネットのソロ。こういう曲調、なんていうんだっけかな。高校や大学で学んだと思うが忘れてしまった。ワールド・ミュージックを思わせる。欧州の街の路上を。曲は主題に戻る。ドラムセットもこの編成にいるのが斬新。ガット・ギターとの絶妙なグルーヴ。ハネとイーブンが同居している? 「1曲で書いていたが組曲にした」と別録り映像で明かす岸田繁。部分を「独立させた」とも。

島唄

THE BOOMの原曲。私も大好きなバンド。無伴奏の岸田繁ボーカルから、沖縄っぽい発音を交えて。サビはドラムスが2拍目・4拍目でキックを踏む。レゲエの定石。岸田繁の心の音楽か。ゆったりと、おおらかな曲想は原曲の見事な再解釈。管楽器・弦楽器の音域が近接したハーモニィ、合いの手が佳局。2サビはドラムスパターンが変わる。Cメロ前の中間部はユニゾンで、音を細かく割ったストロークを交えて。拾得(この音博の会場)の入り口?(裏方スペースとの隔たり?)にかけられた特注?の暖簾を分け入るカメラワーク。音楽の鳴るライブハウスに足を踏み入れる感覚を擬似的にくれる。

ひこうき雲

ゲスト・パートがはじまる。…荒井由実畳野彩加のまっすぐな発声が好印象。曲想に合っている。ピアノ、ギター、ドラムスが和声とリズムを支える。アンサンブル全体がハーモニィの美しさを引き立てる。私は堪能している。キックほかストロークの密度で変化を出すドラムスが曲の進行に緊張感を与える。後奏部も美しい。うなずき、親指を出す楽団メンバーとゲスト、岸田繁に私も同調する。

白い光の朝に

ゲスト関連、平賀さち枝とホームカミングスの曲。軽快な曲調がさわやか。サビで畳野彩加と岸田繁のハモり。荒井由実の世界から地続きに思える。非常にいい選曲と曲順。「ああ いつまでも私のそばで その涙を見せてよ」(『白い光の朝に』より、作詞:原田晃行)サビの歌詞。寄り添う「ふたり」を思う。ふたりは誰かと誰か。私やあなたが含まれるかもしれないし、第三者かもしれない。「音楽」を人に見立ててもいい。岸田繁楽団の音楽への態度を象徴する曲かもしれない。特注?の暖簾のむこう、音響スタッフが乗り込むスペース。木管楽器が座って演奏しているのはどこ?! 会場のあらゆる場所をフル活用して楽団員が着いているよう。その背後など見るに、いろんな物が積んで置いてある。それは決して目に嫌なものでなくて、型破り…というか、使えるものをなんでも使って、そのときその場所、つまり一期一会を味わう楽団のコンセプト?に通ずるものもあるのかなと思う。新しい試みそのものだ。

ドンじゅらりん

ゲストが交代してUCARY & THE VALENTINE。岸田繁ソロ曲をゲストと。そう来たか! 声が合っている。岸田繁とツインボーカルで。アコスティーック・ピアノがゴキゲン。オーボエの合いの手が踊る。つぎつぎに登場する名前、恐竜たちもおどる。エリマキトカゲもオバケーも出てくる。「ジュラきのタマゴで おやこどん」(『ドンじゅらりん』より、作詞:岸田繁)きょろっと瞳を動かすゲストの表現とともに、歌詞の楽しさがびんびん伝わってくる。

琥珀色の街、上海蟹の朝

ゲストUCARY & THE VALENTINEの2曲目はくるり曲。佐藤征史が乗り込む。岸田繁のラップ。キレているリズムが刺さる。ボーカルの表現の幅の広さが楽団に乗って映える。バンドで聴くのとはまた違う映え方。岸田繁はギターを置いて歌っている。サビはUCARY & THE VALENTINEと一緒に。歌詞「beutiful city」のリフレイン。UCARY & THE VALENTINEのメインパート。岸田繁が上パートにまわる。ゲストと2人の上下がたびたび入れ替わる。このタッグ・編成の魅力と原曲のポテンシャルがかけ合わさっている。クラリネットのトーンが色男。ドラムスの細かいハイハット・ストロークのアクセント。スコアがあるのだろうけれど、自由に楽しんでセッションしている雰囲気も伝わってくる。いいなぁ。

ブレーメン

ゲストは小山田壮平に。くるりの名曲! くるり主催の音博でくるり曲が聴けるのは当然かもしれないけれど、こうも新鮮に映えるのはなぜだろう。試みが新しいからか。ドラムス石若駿はタンバリンに持ち替え、かろやかに。ファンファンのトランペット乗り込み。小山田壮平のパーソナリティは少年そのもの。この曲の歌詞で描かれる「少年」。その語り手が小山田壮平。岸田繁もまた音楽を愛する一人の少年でもある。朗々と歌う小山田壮平のピッチには独特のブルースがある。勇ましい金管。大きな瞳を輝かせて躍動感いっぱいに歌う小山田壮平。原曲の編成と親和がある選曲だけど、まったく違った味わいなのが意外だし面白いし考えさせる。宙に飛び上がるようなストリングスのアレンジが映える演奏の素晴らしさ。曲調が変わる後奏。石若駿はドラムスに持ち替え。細かいシックスティーンのリズム割。指揮で統率をとる三浦秀秋

1984

小山田壮平が組んでいたバンド・andymori曲。バンドを私も心底敬愛する。曲やゲストについての考察やそこに楽団・音博をコミットするプロセスを語る岸田繁のスタジオでの作業風景、居酒屋での風景が挿入される。原曲のニュアンスのコントラバスとドラムスではじまる。期待感がたかまる。ファンファンのトランペット。ピアノの8分音符がチラチラリ。小山田壮平のレパートリーをこの編成で聴く新鮮さ。下パートでハモる岸田繁。歌詞が映え、意識に入ってくる。プロローグ映像の提示のたまもの。トランペットとストリングスの主題のユニゾンが僥倖。 ファルセットの小山田壮平。彼のボーカリストとしての技量は底知れない。激しく鮮烈で激情のバンドサウンドが強い強い影響をもたらしたandymoriだけれど、小山田壮平個人のミュージシャンとしての奥行きもすさまじい。彼の歌、音楽への愛と背景を思う。後奏でいわゆる「バイテン(倍のテンポ)」。ゲスト、岸田繁の表情が幸せを語っている。佳曲を貴重で素晴らしい編成と演奏で堪能。

Santa Lucia

ナポリ民謡の原曲。なんと、こんなレパートリーまで聴けるとは。これぞ音楽博覧会。音楽の教科書でも原曲(の編曲もの?)にふれた覚えがある。声楽を学ぶ多くの者も通った曲では。岸田繁の高らかな歌が美しい。西洋的な照りを感じる。岸田繁のボーカリストとして高みを私はまた更新した。耳を開いて、目を見張った。どこまで可能性があるのやら。糸のようにつながったピアノの分散、コードストロークが優雅。ガットギターの音色がハープのようで流麗。弦、管のスコアライティングが凄い。完璧なのでは? ただロック・バンドとしてキャリアを積んでもこれは書けない。後奏まで楽器の魅力がいっぱいに出たアンサンブル。見事。

映像の挿入。「(略)…意外と楽譜なんやなって思ったりする。…(略)…いいスコアを書いて、いいプレーヤーが来て、いいとこで良い演奏ができたらそれ以上でも以下でもない。本来の合奏の姿、生まれるやろなって」映像中の岸田繁の発言より引用。今回の音博の内容や形式に至った思いが語られる。

Ending Theme

無音の映像と、「岸田繁楽団」のコンセプトについてのテロップを前置きに。コントラバスの4ビートのボウイングに乗って前に。希求力のあるインストゥルメンタル曲。ファゴットとクラリネット、オーボエのトリオが絡む。暁を感じるホルン。ストリングスは情感たっぷりに、泣きの歌い。ガット・ギターのストロークも熱情的。マンドリンのような使い方も魅せる。アコースティック・ピアノのストロークが上下する。ニンマリが止まらない岸田繁の表情に、見ているほうも幸せを感じる。

後編のくるりパートは改めてこちらに。

青沼詩郎

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2020年9月23日発売のくるりMV集『QMV』