未白のエルちゃん

西岡恭蔵さんのカバーで知りましたが中川イサトさんの曲でした。西岡さんのアプローチは非常におしゃれ。フルートやコンガが目立っています。が、中川さんの原曲は全然違いました。西岡さんの実演より3年ほど早く発表されています。中川さんのほうはアコギの弾き語り形式のようか。自由で揺れがありフォークらしい小節線に対するメロディ(語り)の幅のある前後感を覚えます。それに対して西岡さんの実演は採譜もしやすくメロディにコントラスト、際立つ輪郭を与えた功績を感じます。歌詞も細部が少し違う。「今日はまるで日曜日」との題名相応のフレーズ(タイトルコール)の歌詞を楽曲の最後までとっておくなど、微妙な改変を加えているのも西岡さんバージョンの特徴です。

“誰も風を見た人は居ないのに 風は街を走る 風を見たのは木の葉だけ 今日はまるで夏の日”(『今日はまるで日曜日』より、作詞:KINTA) 風には色も形もないのですが皆、風を知っています。そこにいるのを肌や匂いで感じます。匂い自体も実は風そのものではない。何かの匂いを風が運んでいるだけです。窓の外の木の葉が揺れるのを見て風の存在を認知することもあるでしょう。誰かの役に立としているのか。なんで風は走るのか。風のふるまいを認識して、夏以外の季節から夏を回顧したり重ね見たりしているかのような口ぶりです。

“唄うには街は白すぎるけど”との表現に、観察者主体の思いや感じる色味が街に反映されていない疎外感、異質性があらわれているでしょうか。「白々しい」という言語表現も日本語にはあります。観察対象の色調が実際に「白い」ことを表す以外の「白さ」が日本語にはあるのです。潔白。告白。

楽曲の後半のほうでおもむろに固有名詞、“エルちゃん”が登場。誰なんでしょうね。白黒つけなくてもいいか。

今日はまるで日曜日 曲の名義、発表の概要

作詞:KINTA、作曲:中川イサト。中川イサトのアルバム『1970年』(1973)に収録。西岡恭蔵によるカバーが『南米旅行』(1976)に収録。

今日はまるで日曜日を聴く

西岡恭蔵(『南米旅行』より)

おしゃれ。西岡さんの歌声のみっちりと質量の詰まった重み、説得力を実感します。だからこそかろみがあったり、言葉の外に余白のある歌詞が生きるのでしょう。うらやましい声です。

左のエレキギターはワウペダルをゆっくりおだやかに踏んでいるのでしょうか。フェイズがかってているというか、強調される帯域がモンヤァ〜とゆったりと移ろう浮遊感のある音色が、胸がすっとする・ほろっとする郷愁を私に与えます。相対的に右寄りにコードとリズムのアコースティックギター。ドラムレスで、コンガがパコっとアクセント。ベースがアンサンブルに重心を与えます。西岡さんの歌声のようにみっちりしてまるみのあるサウンドです。

フルートのオブリガードがまたブラジルダーデというかサウダーデというか哀愁にみちています。すこし残響が奥に抜ける距離感、物理的な空間をステレオのなかに表現します。

Aセクションのほかにあるのか。あまりセクションによる違いで魅せる構造ではないですが後半のほうで「エルちゃんには」……と歌うところでボーカルの帯域が少し沈み込むので雰囲気が変わった印象がします。

オシャレに準固有和音系の和音をまぜて終結尾をつけバンドがしめます。ギター・ギター・ボーカル・フルート・コンガ・ベース。ボーカルがギターを兼ねるかどうかで5〜6人で成立しそうなアコースティックバンド編成のサウンドが耳に福。

中川イサト(『1970年』より)

コード進行も西岡さんはアレンジしているのがわかります。中川さんのバージョンがⅣM7に落ち着くところを西岡さんはⅥmの偽終止にしています。

左に寄った中川さんの歌。コードアルペジオのアコギが右寄り。フルートが入ってくるアイディアは中川さんのオリジナルからすでにあったサウンドマッピングだったとわかりますが最初のコーラスはほぼ弾き語り状態。

フルートが右に入ってくると、ギターの伴奏はいつのまにか左寄りの定位に変わっています。フルートの間奏が終わるとそろ〜っと寝ている虎を起こさぬ忍足、みたいな感じで元の右寄りの定位にギターが戻ります。こういうパニングは珍しいですね。伴奏の主体をになうトラックの定位はいじらず、曲中でふわふわ定位が移ろうとしたらウワモノやイロモノ系のサウンドということが事例としては多いと思います。

いずれにせよ、アコースティックギターや中川さんの声があたたかくきらびやかな質感で収録されています。日曜日以外の日が「まるで日曜日」のようになるイマジネーションが本曲のサウンドにつまっています。

中川イサトのアルバム『1970年』(1973)

西岡恭蔵のアルバム『南米旅行』(1976)。2026年に再発されているようか。

西岡恭蔵のアルバム『南米旅行』(1976)、アナログも再発されているもよう。リリース50周年というワケですね。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『今日はまるで日曜日(西岡恭蔵がカバーした中川イサトの曲)未白のエルちゃん【ギター弾き語り・寸評つき】』)