歌詞・曲のこと

わたしはあんたを忘れはしない 誰に抱かれても忘れはしない きっと最後の恋だと思うから Love is over わたしはあんたのお守りでいい そっと心に Love is over 最後にひとつ 自分をだましちゃ いけないよ(欧陽菲菲『ラヴ・イズ・オーヴァー』より、作詞・作曲:伊藤薫)

曲に描かれた2人には、どんな関係の機微があるのでしょうか。恋の終わりの時期であることは伝わります。離れるのがお互いのために良いかもしれないという空気が2人の間にいつしか漂い始め、それがだんだんと濃くなってきてついにそのことを口に出す時期が来た…そんなところでしょうか。あるいは、もう散々話し合った果てなのか。

“わたし”“あんた”に対して、別れることを示す態度です。それに対して、“あんた”はどうでしょう。未練があったり、まだ2人は続けられる可能性・希望がある線を捨て切っていなかったりする態度でしょうか。ですが、それは強がりや痩せ我慢の類のもので、真の問題解決にはならいことを“わたし”が示していると思えるのが“自分をだましちゃいけないよ”という句です。当の“あんた”も、本当はそれをわかっているのかもしれません。それでもお互いがお互いを締め付けている刹那の安心に縋り付いている状態。そんな想像をします。

冒頭・結尾・表題に“Love is over”

“Love is over”が曲の主題です。タイトルのとおり、このフレーズを繰り返し印象付けています。原曲のキーはB♭メージャー♪ファ・ソ・レ・レ〜の音程です。主音のシ♭を飛び越える跳躍音程。跳躍前(跳躍の踏み切り点)の音はで、B♭メージャーの音階ではⅵです。イントロではⅠのコード、ほかではⅤのコードが鳴っているところでつかうⅵですので非和声音

“is”がⅵ(ソ)。

ペンタトニックスケールを感じさせる音遣いです。「感じさせる」というより、歌メロディを俯瞰するとこの曲はペンタトニックスケールです。B♭調でいうとミ♭、ラを除いた5音でメロディを構成します。この2つの音を抜けば、自然にメロディに跳躍が生まれます。この曲の旋律に躍動を与えている要因かもしれません。

少量の「ペンタトニック外し」

例外的にミ♭が出てくるのはBメロ(サビもしくはコーラス?)“わたしはあんたを”で始まる部分の後半、“きっと最後の恋だと”のところです。ペンタトニックスケールを基調にして、要所のみでペンタ外の音(ⅳ、ⅶ。B♭メージャー調でいえばミ♭、ラ)をつかうのは、私が惚れる曲を鑑賞していてしばしば意識する共通点です(ちなみに『ラヴ・イズ・オーヴァー』ではに相当するは歌の旋律に一度も登場しません)。料理で言ったら少量の塩・コショウ、くさみを和らげるスパイスのよう。

主題となるフレーズ“Love is over”の話に戻ります。この曲の歌い出しと歌い終わり(歌詞の最初と最後)に注目(注耳?)してください。どちらも“Love is over”です。曲のタイトルもカタカナで『ラヴ・イズ・オーヴァー』。大事なことは、あたまとおしりと顔(タイトル)に書いてあるのです。これに近いことは、最近このブログで取り上げた『リンゴの唄』を鑑賞していても思いました。“赤いリンゴにくちびる寄せて…”と始まり、“リンゴ可愛や 可愛やリンゴと歌い終えるのです。しつこいですがタイトルは『リンゴの唄』。あたま(冒頭)、おしり(結尾)、顔(タイトル)に主題です。

ちなみに『ラヴ・イズ・オーヴァー』では、ずっと同じポジション・同じ音形で用いた主題フレーズ“Love is over”を、歌い終わりの時のみ高い音域(歌メロの最高音程である上のソに達します)かつ16分音符の細かいリズムで用いています。始まりで主題結尾で主題ピークでも主題ですね。愛の終わりは始まりへの飛躍であり、せつない中にも希望のきらめきを垣間見せます。

“over”の語頭にピーク。

青沼詩郎

欧陽菲菲 公式サイトへのリンク

オーヤン・フィーフィー Ouyang Fei Fei

欧陽菲菲のシングル『ラヴ・イズ・オーヴァー』。1982年のセルフカバー版だと思います。現在一番入手・鑑賞しやすい版か。

こちらの音源が1979年に発売したシングル『うわさのディスコ・クィーン』のB面に収録された『ラヴ・イズ・オーヴァー』のお初でしょうか。翌年発売されたA面差し替え版も同アレンジだと推測します。

ご笑覧ください 拙演

青沼詩郎Facebookより
“始めるのも勝手、終えるのも勝手であって、「恋」は両者の間で期間のずれがある。矢印が向き合う期間はまるで奇跡。歌の主体は別れを告げているふうなのに「最後の恋だと思う」と云っている所に考えさせられる。次の恋に向かうためでなく、あらゆる希望への手がかりをやり尽くして本当にどうしようもなくなっているのか。あるいは相手の未練へ突きつけるリップサービスなのか。実は未練がましい自分を客観視した歌だと思うのも面白い。ハラハラするしヒリヒリする。「ちょっと待ってよ」と無力に手を伸ばさせておきながら、決してもう触れさせないまま勝手に行ってしまうかの如く。こちらが焦げてしまいそう。”