すっと立って堂々と歌っていますね。手振りを交えています。響きの得られる歌唱を体得していますね。専門機関で声楽や舞台表現を学んだ方かもしれません。
こちらのほうが後年のもののようです。ビブラートが強くかかるサスティンです。語頭の立ち上がりに貫禄が出ました。フレームには入ってきませんが後半でハーモニーボーカルのバッキング。
曲について
千賀かほるのデビューシングル曲(1969)。この曲で第11回日本レコード大賞新人賞を受賞したとのこと。
私は歌本に載っているのを見てこの曲を知りました。シンプルな出だしの印象。作詞者を見るに吉岡治。『おもちゃのチャチャチャ』を子供向けに補作詞した人と記憶していました。
作曲の河村利夫はサクソフォン奏者でもあり編曲もする方のようです。武蔵野音楽大学出身者で、音楽教室なども営んでいる様子。コロムビアの専属作曲家歴があるとのこと(参考サイト:河村音楽院>河村利夫プロフィール)。
千賀かほる『真夜中のギター』(1969)リスニング・メモ
右側にナイロンorガット弦のギターのアルペジオ。はじめにこのイントロを聴いたときにあまりのシンプルさに驚きました。むしろそのことが「先まで聴いていくとどうなるんだろう」という興味に変わり、音楽に引っ掛かりをもたらしているのです。アルペジオは弦一本ずつのストロークに交えて2・4拍目のオモテに1弦と2弦の長3度の音程でハモるストロークを入れています。ちゃんと聴くとシンプルながらも丁寧なアレンジメントと演奏であることがわかります。
グロッケンが平歌でボーカルに合いの手します。ともに左に振ってあるシンバルと高音域どうしでコンビネーションしていますね。
エレクトリックギター。イントロや2サビ後の間奏で、ごくクリーンな単音プレイでソロ。澄み渡る深い余韻の残響です。
ドラムス。Aメロはライドシンバルの2分音符をひたすらチョンと置きます。ブラシを用いたトーンです。Bメロに入るところで16分音符のオカズ。「タカタカタカタ」とヘッド表面にわさわさした物体が衝突する、胴鳴りを抑えポジショニング高めな乾いたスネアのトーンです。ステレオ(2本のマイク)で違う位置から録った音を左右に振っている? ニュアンスの違う音がサビで左右から聴こえます。でもBメロに入るときのオカズが左からしか聴こえないので、これは同時に同一のスネアの演奏を録音したものを左右に振ったのではなく、重ね録りしたのかもしれません。キックやタムは聴こえませんのでスネアとシンバルのみ。
ベース。音の太さがすごいですね。Bメロでズゥーンとグリッサンドして入ってきた瞬間とてつもない存在感。Aメロが完全に全休符で空けてあるので余計に対比が際立ちます。1・3拍目をとるストロークに直前のウラ拍の8分音符を引っ掛けるパターンです。アタックの瞬間の「ピキ」といった質感はピック弾きかもしれません。
ストリングス。2分音符と16分音符で緩急つけたバッキングです。非常に奥行きのある雅なサウンドです。西洋絵画の大作のような優美さがあります。どんな録り方とミキシングをしたらこの音になるのでしょうか。ストリングスどうしの中でも対旋律が持たせてあり、ときおりコールアンドレスポンスするようにかわりばんこに各パート(音部)にスポットが当たる編曲が妙です。低音パートは右寄り、中高音域は左寄りの定位に感じますが、かなり立体的な音像がメイキャップされているようです。ギターがプレーンな音でシンプルなフレーズを基にしているので、豊かさをもたらす重要な役割をストリングスが担っています。
ボーカル。単一のトラックで聴かせますが、最後のサビ後にAメロ相似パートにもどってくるところで2声になります。真夜中に集った孤独な似た者同士の表現でしょうか。ですが千賀かほるによる重ね録りであり、本質は独り。曲の主題の孤独が際立ちます。
歌詞についてや感想
言葉の意味に注目すると、なかなか物悲しい歌詞です。孤独者どうしをつなぐ真夜中。ギターの演奏に興じるのは慰めでしょうか。
演奏は時間芸術。創造的な行いであり、生産性ある豊かな人生に欠かせません。いっぽうで、そちらへのめり込むほどに、その儚さが際立ちます。詩情は心を揺さぶり、鎮めます。
曲を検索するにカバー例が多い。こうしたメランコリックで理知ある作風、その主題が多くのミュージシャンに好まれているのかもしれません。メロディの歌いやすさ、シンプルさが門戸を広く開いています。
メロディの無駄のなさや普遍性はもちろん、ストリングスの対旋律やフレージングに象徴される編曲のセンスに感激しました。作曲者が編曲者を兼ねる好例だと思います。筒美京平作品にもその例が多いです。
青沼詩郎
『真夜中のギター』を収録した『千賀かほる ゴールデン☆ベスト』
ご笑覧ください 拙演