曲について

原田知世のシングル曲(1983)です。当時15歳くらいだった彼女が主役を演じた、筒井康隆の同名小説を原作とした大林宣彦監督の同名映画の主題歌で、松任谷由実が作詞・作曲しました。編曲は松任谷正隆です。

原田知世『時をかける少女』(1983)リスニング・メモ

シンセサウンドの、強拍をとったあとに移勢するフレーズのイントロ。このフレーズはメロのバッキングの主パターンにもなっていますし、メロからサビに移るとき、1サビから2コーラス目に移ろうとき、2コーラス目のサビが反復するとき、エンディングにも登場する重要フレーズです。リスナーに与える曲の印象を占める割合が大きいのではないでしょうか。このサウンド、私個人としてはドゥービー・ブラザーズを思い出します。彼らのアルバム『Minute by Minute』が私は好きなのですが、このアルバムもシンセサウンドの魅力満開なのです。原田知世の『時をかける少女』(1983)とちょっと似ているトーンに出会えることと思います。未視聴の方はぜひお試しください。ほか、かなり音色が多岐に渡っています。超重要ポジション。

ベース。音で埋めるところと、休符を入れるところの緩急の采配がハイセンスです。ストップ&ゴーが妙。2コーラス目のサビの折り返しあたり、“褪せた写真のあなたのかたわらに”(2:35付近)、そのあとのサビの反復“過去も未来も星座も越えるから”(3:04付近)にみられるフレーズが見事です。滑らかに天までぬらりと舞い上がったのち、短2度の音程の変位で揺さぶります。この動きを、スライド(弦を押さえた指をストロークした後にそのまま平行移動させる奏法)を用いて艶かしく弾いています。ほかにも語彙豊かなフレーズやフィルイン。音の表情やダイナミクスに対する感度が高く、緻密で丁寧な演奏。私の心をつかむプレイです。

ドラムス。解像度の高いサウンド。キックは衝突のビチッという質感と短い胴鳴り。打ったあとにビーターを打面にくっつける、クローズドなトーンです。タム、スネア、ハイハットやシンバルの音も幅広い音域が明瞭で太く、それでいて音像の輪郭はすっきりとしています。これくらいの年代って、マルチマイク録りの技術や機材の質がかなり円熟してきている頃でしょうか? これ以上どうせいというねん!というくらい文句のない良音です。タムで定位を出していますね。ハイタムが右にスコンと、低いフロアタムが左にドコドコと聴こえる瞬間があります。

ラテン・パーカッションもドラムスとともにリズムを担います。カッというリム付近の乾いた音とトゥーンと抜ける独特のトーンのコンビネーションでアクセント。アンサンブルを引き締めるナイスサブです。右にコンガ、左に短いキレ主体のボンゴでしょうか。

アコースティック・ギターはプレーンでハイファイな明瞭なアルペジオの音が聴こえます。エレキ・ギターはコーラスがかった音でアンサンブルに潤いを。ギター類の情報量はシンセのサブという感じですが、小気味よい演出と幅の広さを加えています。

ストリングスも語彙豊かです。細かく動いたり、いじらしく震えるようにトレモロしたり、なめらかに4分音符で動いてみせたり、かと思えば16分音符で舞い上がったりします。

サックスがエンディングでごきげんな感じで歌います。1サビ後の間奏ではロングトーンで居残り、宙に華を打ち上げつつ2コーラス目につなぎます。

コーラスに原田知世がいっぱいいますね。多声部で広がりを出しています。かなり重ねているかな? 数で複雑で豊かな質感をつくっているようです。あどけなさ残るメインボーカルをしっかり支えていますね。ぬかりのない作り込みです。

メインボーカル。なんといっても若い。冒頭でもいいましたが、15歳くらいのはず。ほぼノンビブラートでまっすぐに発声しています。息の質感が伝わってきますね。ギリギリの揺らぎが魅力です。平歌の折り返し付近やサビの後半付近などの高いところとそれ以外のところで、実声と裏声を行き来して歌っているようです。あどけなさはありますが器用ですね。柔和で透明感ある儚いボーカルの魅力は後年の彼女にも通じていると思います。

感想

恥ずかしながら、映画や小説のほうは未鑑賞。ですが、松任谷由実の歌詞が非常によく作品を抽出して表現しているのではないかと思います。この楽曲から逆輸入するみたいに映画や小説をつくったとしても、一連の作品群としてどこか統一感のあるものになるのではないでしょうか……と思えます。

高い音域への跳躍によるリーチが目立つメロディライティング。大人と子供の端境にある少女の精神の振れ幅を思わせます。映画、どんな作品なんでしょうね。ますます気になります。ぜひ見てみたい。

後年、原田知世は『music & me』(2007)、『音楽と私』(2017)とセルフカバーを繰り返しています。本人にとっても特別に特別な1曲なのではないでしょうかね。

1983年のものを今回聴きましたが、編曲の緻密さ、演奏、録音の良さに相当惚れました。この布陣でメインキャスト、十代なかばの原田知世を囲んだのです。その上あろうことか作詞・作曲はユーミンです。いい意味でユーミンが立役者になっている気もします。「どーだ!作詞・作曲はユーミンだぞ!」という押し付けもしつこさもなく、原田知世というキャスト、曲や音源の良さがすっと出ているように思うのです。できる大人たちが、見事に原田知世をプロデュースし世に送り出したのですね。そしてそれが成功したエポックだったのではないでしょうか。

青沼詩郎

原田知世 公式サイトへのリンク

1983年のものを収録したコンピ。

『music & me』(2007)収録は、ボサノヴァ風。

『音楽と私』(2017)収録は、ストリングスを用いたサロン・ミュージック感。

ご笑覧ください 拙演