作詞・作曲:曽我部恵一。曽我部恵一のアルバム『LOVE CITY』(2006)に収録。

部屋の空気を共有し、そのまま写したようなパーソナルな匂いのするセッション。ルームアンビエンスが聴こえる感じが自然で好感です。ベーシックと歌と、なるべく全員で一発録音したような、温かい輪を感じる音源が好ましい。人生の一時期を過ごした3つの部屋を振り返って、4つ目や5つ目の部屋で仲間と演奏しているような雰囲気が漂ってきます。

ドラムスは左に。パシっとタイトなスネアが気持ちよく、部屋に自然にまわりこんで鳴り響くニュアンスです。右にアコベ。2拍目裏にときおりパシっとアタックノイズを出して、パーカッシブに弾いているでしょうか。演奏に生命感を与えます。

左にドラム、右にベースと、現代のポップソングの定石を思うと大胆な定位づけをしていますがある意味これもひとつの定番で、私も真似たくなる美を感じるスタイルです。真ん中にはアコギの弾き語り。そう、アコギとボーカルというよりも、アコギを弾きながら歌うじゅんぜんたる表現、ずばり「弾き語り」が真ん中で鳴っていて、それをベースとドラムの両壁が囲っている。この感じが、この楽曲の肝であり生命であるようにも思えます。

左には至って柔和なエッジをした、まろやかなエレピが寄り添います。同じく左に、視線をときおりひきつけるオブリガードのアコギ。エレキギターのないこの生楽器の物理の響きと部屋のアンビエントが『3つの部屋』のこの音源の魅力です。

右端にはチラっとタンバリンがいますね。脇役ですが彩りの面でいるといないとでは違うでしょう。いつもつるんでいる仲間がベーシックで、たまにつるんだり遊んだりする仲間も輪にちょっと加わって、一緒に酒でも飲んで卓を囲っている。そんな雰囲気を感じます。タンバリンが大好きです。

エンディングはフェードアウト。この輪が、メンバーそれぞれがそれぞれの生活に帰っていく、自分の足で次の何かが起きる“部屋”に行くその任意の瞬間までセッションが続く快さを感じます。本当にずっと続いてほしい。ずっと見守っていたいですし、たまに私も交ぜてほしいくらいです。

エンディングでスッと、真ん中のストラミングギター(弾き語りのギター)とリードプレイのギターの定位が入れ替わるのが巧い。左でオブリを弾いていたギターが、歌詞のある部分をやり終えた弾き語りの人にリードプレイの譲り、促したような流れをイマジネーション。ちょっといいかんじ広いソファーかもしれませんし、即席の粗末でインスタントな椅子かもしれません。たくさん人があつまったときにだけ動員される、普段は端っこで適当に扱われているような簡素な椅子がどの“部屋”にもひとつやふたつあったりするものです。

“昼間っからレコード屋 新入荷からチェックして”

(『3つの部屋』より、作詞:曽我部恵一)

この歌い出しのラインを、音楽仲間がその場で歌ってみせてくれたのが、私がこの『3つの部屋』という楽曲を知ったきっかけでした。

こんな日が永遠に続けばいい。ハレでもケでもない、でもやっぱり日常なんだけど理想でもあって、ずっとこうしていられる、それに尽きるようなありふれた情景。それでいてモノ好きさを象徴する「昼間っからレコード屋」。もう傑作ですよ、ホントに。

そんな主人公の隣にも、それに負けないモノ好きがいた。そんな出会いは、もう然るべきして起こったものと思えます。

“いつものカフェで待ち合わせ きっときみは遅刻して 「ごめんね」なんて言うはずもなく クールな目つきでつぶやくんだ 「はぁ…忙しいわ がんばってるのに なんとかして」”

(『3つの部屋』より、作詞:曽我部恵一)

「きみ」の人柄の様子、そのはしばしのディティールが伝わるラインです。こういう人なのか、と。音楽ライターさんとかかな……と、粗雑な私の勘繰りはさておき……

おしりのところのラインが、はじめは、主人公に「なんとかしてくれっ」と嘆くラインに聴こえました。グイグイ来るときは来る感じで、自己主張が臆することなくちゃんとできる、はっきりしている。弱音とか、思ったり感じたりしたことをそのまま漏らす・表現することについてフィルターをかけない、良くも悪くも正直だから信用できる。ずっと友達でいてくれる人もいる。そんな「きみ」の人格を想像しました。

グイっと来る感じ(グイっと自己主張ができる感じ)の人格を想像したあと、このラインの読み味の幅を探っていると、別のニュアンスがみえてきました。「なんとかして」が、倒置法である可能性です。

「なんとかして私なりにがんばってはいるのだけど、忙しいんだよね……」というような、自己完結っぽい嘆きの読み筋です。主人公に「大変な私のことを、なんとかしてフォローしてよ!」とあたり散らす人でなく、あくまで自分の中でやり尽くしつつ、それでも拭いきれない大変さを、あくまで自分からはみだしてしまう範疇で弱音としてこぼす人です。

そんな「きみ」に、主人公がする提案が、歌の情景を未来に進めます。

“それでぼくは 「きみを連れてこの街を出よう」とか、言ったんだ。”

(『3つの部屋』より、作詞:曽我部恵一)

「きみ」を目の前にしつつも、どこか、自分の胸の中でだけ発した言葉のような響きがあります。だって、きみを目の前にしていたら、誰が誰に向かって言っているのかははっきりしているわけですから、「この街を出よう」ときみに向かってただ提案すればいいのですから。「きみを連れてこの街を出よう」。ラインがこのように、文章のようになっている。それは、主人公の思いを、自ら客観して切り取ったような表現だと私に思えるのです。

このあたり、YMOの『君に、胸キュン。』のコーラス(サビ)を思い出す、愛嬌のある美しいメロディと響きです。音楽愛を感じます。みんな、レコード屋いこうぜ。そんな好き者にとっての心のアンセムです。あくまで、胸の中で、ね。

青沼詩郎

参考Wikipedia>曽我部恵一へのリンク

参考歌詞サイト プチリリ>3つの部屋

ROSE RECORDS サイトへのリンク

『3つの部屋』を収録した曽我部恵一のアルバム『LOVE CITY』(2006)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『3つの部屋(曽我部恵一の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)