兵庫県龍野市が、毎年童謡のための詩を募集している。三木露風賞という。
7月1日はその締め切り日だ。
私は、2018-2019年頃にはじめてこれに応募してみた。落選したけど、10月くらいになって、入賞者の作品が載ったA4紙を主催が送ってくれて、読んでみるとためになったし面白かった。こういうものが選ばれるのかという傾向を見出す、というほどのおおげさなこともないけれど、他人の発想を知るのは興味深い。ああ、そのアイディア俺も考えたわ。あるある、やっぱりね、みたいなものもあった(生意気か)。
そのときの三木露風賞の入賞者でいえば、AI(人工知能)のことを表現した者がいた記憶がある。私もAIをモチーフにするアイディアは持っていたから、うん、あるよねと思った。そのとき私が応募した作品のタイトルは『マンホールかぞえうた』だ。AIの作品は送らなかった。AIの作品には自分で曲をつけてしまったからだ。というか、曲と詩を同時につくったので「つけた」という感じでもなかった。
その次の年の応募のときも、「あ、やべ。今日締め切り日じゃん」と思い出して昼休みに30分で書いて郵便局に突っ込んだ。その翌年もやっぱり「あ、やべ、今日までじゃん」と思って、朝、キッチンで30分で1篇書いた。曖昧な記憶によれば音階をテーマにした『かいだんのうた』というのをつくった。2年連続で「〜うた」とおしりにつく詩を書いてしまったところに、自分の安易さと悪癖を思う。
それはそれとして、童謡に対しては、私なりの愛やら思い入れがある。
ときに私は、地域の人が集まる市民のおまつりで歌ったり演奏したりすることがあった。今(執筆時2020年頃)はコロナ禍でそうした機会は全部なくなったけど、老若男女あらゆる人が往来するそういう機会に演奏する私のお気に入りのひとつが、たとえば財津和夫の『切手のないおくりもの』(先日このブログで取り上げた)だし、もうひとつ今日紹介したいのが『アンパンマンのマーチ』である。
作詞者はやなせたかし。アンパンマンの原作者だ。作曲者は三木たかし。おふたりとも亡くなっている。歌唱者は、ドリーミング。寺田 千代、寺田 嘉代の双子姉妹歌手だそうだ。1988年にシングル発売。
原作者が主題歌の作詞を担当すると、二次創作物たるアニメとも一体感が出やすいだろう。それはただの「感」じゃなくて、副次の創作物を含めて作品を「地続き」にする制作の手法だ。原作者にはそれだけ仕事の負担がかかるけれど、これはひとつの理想的なやり方だと思う。(こじつけただけのタイアップなんて……やめておこう。)
抽象的だったり、観念的だったりすることば選びは想像の自由がある反面、諸刃の剣だ。でも、この『アンパンマンのマーチ』は最高純度の普遍性に高められた強みを感じる。
歌詞
http://www.utamap.com/viewkasi.php?surl=E02014
大人になってからこの詞を読んで感じるのは、純度ゆえのあやうさである。うわ、そこまで言えるのってすごいな、汚れた私は、誤解を招くのをおそれて尻込みしてしまう! と思うようなことばが並ぶ。
この歌をぼやけさせない単語は固有名詞の「アンパンマン」によるところが大きい。観念も抽象も抱き、ひとつに率いてみせる巨大なシンボル、アンパンマン。主人公はアンパンマン含め、描かれるすべてのキャラクターかもしれない。もはや、この歌やアニメのアンパンマンを「まったく未知の新作」ととらえる人はほぼいないであろう。すでに理解の礎が築かれている。言い過ぎかもしれないが。もちろんこの歌・このアニメに初めてふれる新しい世代は日々生まれている。彼らが物心ついて、はじめてこの歌やアニメに触れるとき、何を思うのだろう。アンパンの顔をした人型が空を飛ぶ奇妙さか?
私は自分のことにしてまったく覚えていないのだけれど、母親から聞くに、幼い私は仮面ライダーよりも戦隊ものよりも断然『それいけ! アンパンマン』が好きだったという。幼い私に理屈もなにもない。それでも幼児にだって感性や選ぶ能力は備わっている。それは間違いないだろう。
この曲を、大人になった私は近年、アコースティックギターと、ハーモニカホルダーに取り付けたハーモニカを装備して、ジャカジャカと6つの弦をかき鳴らしてフォークかつパンキッシュなニュアンスで弾き語っていた。この曲は、そうした「たぎる心」を余すことなく乗せてくれる。
コード進行おたくを自認する私としてはBパートの頭の和音が副次調のドミナントから始まるところが何よりもツボ。そしてベースラインが、副次調の異質な響きを転々とする旅路をなめらかに順次進行でつないでいるところなんか、職人の魂を感じる私のアンテナのレベルメーター針が振り切ってピーーーー(興奮した、失礼)。
あと、間奏のフルートやホーン系のオブリガードがいい。4度や5度で飛び跳ねる金管。エンディングでは音割りが細かくなって派手になる。
アニメをみるたびに、繰り返し聴く主題歌。刷り込みで好きになるのもあるかもしれないけれど、ことばの力、作曲やアレンジメントの技術に裏打ちされた魅力がある。「地域のおまつり」でこれをやると、ウケがいい。
青沼詩郎
ドリーミングのシングル『アンパンマンのマーチ』
ご笑覧ください 拙演